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ウイングはエコロジカルに育てるべき。三笘薫の成長プロセスにヒントがある?

2023.05.23

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの本音トーク~

毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のテーマは「現代ウイング考察」。ブライトンの三笘薫に代表される新時代のウイングの特徴、育成法、バックグラウンドなどを、育成年代のフィールドワークを続ける川端さんと議論してみた。

今回のお題:フットボリスタ2023年5月号
「現代ウイング考察」

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

バル・フットボリスタが書籍化!

そもそも、なぜウイング特集?

川端「久しぶり。今日は呼ばれて来たよ」

浅野「最新号でウイング特集号を作ったので、ぜひ川端さんの感想を聞きたいと思って、わざわざ来ていただきました。呼んですぐ来ていただき、ありがとうございます!」

川端「そもそも何で『ウイング』フォーカスだったんですか?」

浅野「フットボリスタにはポジション特集というシリーズがあって、実はウイングだけ残っていました。ここ数年レナート・バルディや西部謙司さんも『オールラウンド化が進む現代サッカーで、専門職が必要なのはウイング』と言っていて、いつかやりたいと考えていました。三笘薫が大活躍していたこのタイミングで最後のカードを切った形ですね(笑)」

川端「ああ、サイドバック特集とかやってたシリーズの一環か」

浅野「あとは特集リードで書いたこの文章がすべてですね。

 『ポジショナルプレーの浸透によって5レーンを埋める攻撃がスタンダードとなったが、守備側も5バックでスペースを封鎖する守り方で対抗するようになった。SBとCBの間、ハーフスペースやポケットを空けないことも徹底され、守備ブロック形成が完了した相手を崩すことは厳しくなっているのが現状だ。

 攻略法は2つある。1つは守備ブロックが完成する前に攻めてしまうこと。縦への速さがより求められるようになったのは、守備側の進化と無関係ではない。もう1つは質的優位での崩し、つまりは1対1で勝つことだ。そのキーマンになるのは、サイドからの切り崩しを担うウイングである。

 ビニシウス、サラー、クバラツヘリア、サカ、そして三笘薫……。今特集では、復権しつつある現代ウイングについて考察してみたい』」

川端「長い(笑)。専門職的なウイングと、そうでない偽ウイングみたいなのが併存しているのが現代サッカーですよね。そもそもウイングいない、というのと合わせると三通りか。片側だけ専門というのも多いけど」

今季プレミアリーグ制覇に手が届きかけたアーセナルの攻撃を支えたブカヨ・サカ(左)。ここまで公式戦14ゴール11アシストを記録している

浅野「欧州主要リーグにおけるウイングを調べていったわけですが、イタリアやスペインからは『そんなに凄いウイングは少ない』というつれない返答をいただいたりしました(笑)」

川端「イタリア対談で『ドリブラーは育てるもんじゃない』と素っ気なかったのは笑っちゃいました(笑)。イタリアらしい見解だ」

浅野「スペイン在住ライターの木村浩嗣さんも、かつてはセビージャから名ドリブラーがたくさん生まれていたけど、今では偶然だったことがわかったと嘆いていました(笑)。ゆえに強力なウイングがいるのは、資金力で世界中から選手を集められるプレミアリーグが多かったですね」

川端「『育てるものじゃない』は一面で間違っていないと思うんだけど、『ドリブラーじゃなくする』ことは指導で簡単にできちゃうんだよね。そうした認識の不足も、スペインやイタリアみたいな戦術先進国からドリブラーが出てこなくなってる理由の一つじゃないかなとも感じるかな。あと、資金力の差によるタレントの質も当然あるけど、そもそもプレミアリーグ自体のサッカースタイルとウイングのタレント性を押し出すやり方との相性がいいのもあると思う」

浅野「あとやっぱりシティ対策の5バック化もそうだけど、プレミアは戦術トレンドのサイクルがそもそも早いのもあるよね。5バックで5レーンを埋められたら、サイドでの質的優位だったり、CFの高さだったりが物を言うようになります。セリエAも今季は5バックがめちゃくちゃ増えているので、それに合わせて来季以降はウイングが買われるようになっていくかもしれません」

「ウイングの育成」と「タッチ数制限」

川端「ポジショナル側(?)も、結局最後は個で打開できる選手が欲しいしね」

浅野「守備側が進化していて、結局個で打開できる選手がいないと崩せなくなってきているのは間違いない。あとオールコートマンツーマン的なハイプレスも当たり前になって、ますます個で剥がせる選手が求められているのもあります」

川端「川崎フロンターレU-18の長橋康弘監督に話を聞いた時も、三笘が小学生だった時代がちょうどバルセロナ全盛の時代で、育成年代でそういうサッカーを仕込めば簡単にボールを回せるんだけど、『これ絶対対抗するためにオールコート全ハメみたいなのが来るから個人ではがせるようになってないとダメだろ』と思ったという話をしていて、それは面白かった。つまり『パスサッカーだからドリブラー不要なんじゃなくて、むしろ全員ドリブルで運べてはがせてということができないといけない時代が来るのでは?』という予見があったという話」

浅野「それは面白い視点だね。この号に収録されている植田文也さんのインタビュー『エコロジカル・アプローチ視点で見るドリブラー育成法』は、まさにそうした時代のトレンドにとらわれない個人の身体的な特性や好き嫌いなどの趣向を生かしながら伸ばすことをテーマにしています」

川端「あの話は個人的には『そりゃそうだろ』という話でしかないんだけど、でもそうじゃない現実が世界中の育成年代で起こってるよね。日本然りで。例えば、『子どもたちにタッチ数制限のトレーニングやらせ過ぎなんじゃない?』というのは結構トレンドのテーマだ。W杯が終わったあとにリージョさんも言ってたけど」

浅野「その植田さんのドリブラー育成法のインタビューで、真っ先にテーマに挙がったのが『タッチ数制限』でした。ドリブラーの才能を秘めた選手がドリブルできなくなりますからね……」

川端「小学生年代でパスワークでいなすサッカーを浸透させるのは、選手が集まる有力なJクラブならば別に難しくないんだけど、本当に体得しとかないといけないスキルを落としちゃうリスクあるよね、という」

浅野「だから『子供たちに戦術を教えるかどうか議論』も、極端に走り過ぎなんだろうなとは思った」

川端「そもそも『戦術』って何?という話だけどね、それは。『教える』って何?という話でもある。選手個々人が『勝つための攻略法』みたいなのを自分で試行錯誤しながら考える工程をすっ飛ばして、『攻略WIKIを読み込ませる』みたいな『教える』であれば、その子の地の力は育たないのは間違いないと思うよ。ロボットみたいになっちゃってる選手はやっぱり上のレベルで壁に当たっちゃうだろうし」

浅野「先回りして答えを与えちゃうのは、最終的にその子のためにならないというのは子育てと同じだよね。悩みながら打開策を考えたり試したりする過程そのものが、子どもの成長に繋がってるんだろうし」

川端「あと、本当に難しい問題は別にあって、Aという選手とBという選手では教えるべきことが違うんだよね。無謀に思えるドリブルで敵陣へ突っ込み、そこを狙うのかよというパスを通そうとする三笘薫少年に対して、『もっと簡単な方法があるからそれをやりなさい』と味方を使って楽にプレーする方法を授けていたら、今の彼はない。だからそこで我慢した川崎Fの指導者は素晴らしいと思う。ただ一方で、みんなが三笘になれるわけでもないんだよ(笑)」

浅野「まあ、それはそうだけど(笑)。とはいえ、特に下の年代でタッチ数制限の練習が多過ぎるのは、ドリブラーの可能性を摘んじゃっている部分はあるかもしれない。子どもたちの脳内からドリブルによる打開という選択肢自体を消しちゃうわけだから」

川端「それで言うと、実はドリブラー以外の可能性も摘んでいるかもしれないという視点はあると思う。だって、小学生時代は傑出したドリブラーだった選手が、その後に他のポジションで大成するパターンも大いにあるからね。そして今の時代、ドリブルのスキルってCBから全ポジションに一定水準以上のモノが求められてるわけだから」

浅野「結局、10年後にどんな能力が求められているかはわからないんだから、多様なスキルを学ばせられる環境を作るしかないんだろうね。その上でパスしたい子にはパスさせればいいし、ドリブルしたい子にはドリブルさせればいい。何をするかを決めるのは本人で、指導者が全員をイニエスタやシャビにする必要はないですからね」

スペイン代表とバルセロナの黄金期を支えたシャビ・エルナンデス(左)とアンドレス・イニエスタ(右)。写真は2014-15シーズンのCL決勝後

川端「『始めに指導者の理想の選手像ありき』になりがちなのは怖いよ。同様に『クラブごとに統一されたゲームモデルを作って下から同じサッカーを!』みたいな最近Jリーグで流行ってる動きもそうだけど、『それ、本当に子どもの成長に繋がってる?』というケースはある。『理想のチームスタイルのために未来の三笘を消してないか?』という怖さを感じることがある」

浅野「去年、中学生年代の高円宮杯U-15を見た川端さんがそういうことを言ってたのは覚えているよ」

川端「日本でもメジャーなチームだと、そもそもそんなにドリブルさせないからなあ。練習を見に行っても、やっぱり『アンダー2タッチで!』みたいなのばかりだよ。逆にドリブルばっかさせてるチームは、それはそれで上の年代で適応できない選手にしちゃってて問題だったりもするし。そもそも三笘にしても、ウイングに特化して、あるいはドリブラーとして特化して育成された選手ではないということは強調しておくべきかな。10番の位置で王様をやってたこともあるし、背が伸びていってスピードを身につけていく中で今のスタイルを確立していった。だからライン際に特化しないでトータルで攻撃できる選手になっているわけで、それが彼のウイングとしての特長、個性にもなっている」

欧州から名ウイングが少なくなった理由

……

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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