【連載】プロの世界では10歳差も当たり前。風間八宏の『スペトレ』が選手を成長させる理由
「風間八宏×セレッソ大阪」育成革命の最前線 第4回
「ここまで早く成果が出るものか」と驚いた。日本サッカー界が誇る“奇才” 風間八宏がセレッソ大阪アカデミーの技術委員長に就任して2年目を迎えた2022年、U-18とU-15、そしてU-18ガールズまでもが夏の全国大会であるクラブユース選手権の頂点に立った。カテゴリーをまたいだ“3冠”は史上初である。
U-15とU-18が見せたのは、まさに川崎フロンターレと名古屋グランパスで体現してきた“風間サッカー”だった。しかし、実際に選手を指導するのは本人ではない。彼が直接現場に入ることなく、なぜこのような現象が起きたのか――?本連載では風間八宏がセレッソ大阪で取り組む育成改革の実態に迫る。
第4回は、様々な年代の選手が一同に会し、風間氏の技術指導を受ける「スペシャルトレーニング」、通称「スペトレ」がテーマ。セレッソ大阪アカデミーでも定期的に行われており、2022年9月にはヨドコウ桜スタジアムにて一般公開された。風間氏がライフワークとして続けてきたアプローチは、選手育成にどのような効果があるのか。そして、セレッソ大阪でも「スぺトレ」を開催する狙いを教えてもらった。
小学生と高校生が一緒にプレーする中で得られる学び
――昨年9月に『スペトレ』in ヨドコウ桜スタジアムが開催されましたが、かなり多くの人が見に来ていましたよね。
「420人くらいの選手や指導者が見に来てくれました。告知を始めたのは実施する10日くらい前からだったのですが、それなのに全国から多くの方に来ていただいて驚きました。普段行っているスペトレにも、他のJクラブはじめ様々なチームの指導者がよく見学に訪れています。セレッソで私が取り組む以外でも、淡路島で私の教え子が中心となってスペトレを始めたり、山梨でもそういう動きがあったりと、徐々に広まっています」
――全国各地で取り組みが広がっているんですね。その理由はなぜだと思いますか?
「多くの人が興味を持ってくれる理由として、目に見える形で選手の変化を促せるというのが1つあります。スペトレは小学生から高校生までが同じピッチに立って年齢関係なくやるので、選手は普段とは違うことを考えながらプレーしなければいけません。参加する選手だけでなく、指導者の繋がりができるというメリットもあります。多くの指導者が一同に会してトレーニングを見ることで、指導者が孤立しない。兵庫の西播磨でも2日間で指導者や子どもたち260人ほどと交流しましたが、指導者同士が繋がることは良い刺激になっているようです」
――参加する選手はどのように決めているのでしょうか?
「私を中心にスタッフ4人ほどで約30人を選んでいます。ただ、ここは『教育してくれ』と何かを習いに来る場所ではなく、一番うまい子、一番よく見える子が来る場所なんです。そこから入れ替えてやっていく形です。
今、セレッソにいる選手もこのスペトレの基準で選出しています。まだ進化の早さについてこれていない指導者もいますが、子どもたちはどんどん変化していっています。スペトレでは“競争”が起こるんです。学校で考えたら小学校、中学校、高校というとかなり差があるように感じますが、12歳から17歳は5つしか違わない。プロの世界では5歳差なんて当たり前ですよね。学年が違うから、ではなく全員がライバルでもある。そのように、私たちの頭の中でとらわれている常識を取り払って、フラットな目でみんなを見られる機会となります。同学年同士のプレーとはまったく違う状況で得られる刺激はすごく大きいものですし、ここで明らかに上手くなることができますからね」
――上の年代の選手にも得られるものがあるんでしょうか?
「下の年代には『プロだったら10歳の年の差なんて関係ない。その中でお前たちは戦ってるんだよ』と伝えますし、上の年代には『こういう場所で上手に遊べないと、上のレベルに行けないぞ』と言います。それぞれが確実に得られるものがありますね」
――ちなみに、風間さんはスペトレをいつ頃から始めているんでしょうか?
「2004年です。清水でやっていた頃の選手は最終的に7〜8人はプロになったと思います。(風間)宏希と(風間)宏矢はもちろん、清水エスパルスに行った平岡康裕(現・愛媛FC)や栗山直樹(2022年まで愛媛FC)や、多々良敦斗(現・ラインメール青森)もいました。多々良は静岡産業大へ進学した後も私に相談に来ていましたよ。
ただ、清水でやる前からもいろいろなところに呼ばれて『100人の選手を見てください』『300人の選手と指導者が来るのでサッカー教室をしてください』と頼まれたことは昔からありました。いざ始めた際、スペトレでは学年も性別も混ぜてやる中で『5号球と4号球で普段と使っているボールが違うけどどうなんだ?』と疑問を言う人もいましたけど、年代ごとに使用するボールが決まっているのは、1つの基準に過ぎないわけですからね。いろんなボールを蹴ってみるのも経験だし、意外と『止める』技術は体が柔らかい小学生の方が上手かったりします」……
Profile
竹中 玲央奈
“現場主義”を貫く1989年生まれのロンドン世代。大学在学時に風間八宏率いる筑波大学に魅せられ取材活動を開始。2012年から2016年までサッカー専門誌『エル・ゴラッソ 』で湘南と川崎Fを担当し、以後は大学サッカーを中心に中学、高校、女子と幅広い現場に足を運ぶ。㈱Link Sports スポーツデジタルマーケティング部部長。複数の自社メディアや外部スポーツコンテンツ・広告の制作にも携わる。愛するクラブはヴェルダー・ブレーメン。