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326とワールドカップ:人気イラストレーターが「やきもちを焼く」スポーツの魅力

2022.12.19

私とワールドカップ #3

サッカーと出会う機会になったり、熱中するきっかけになったり。ワールドカップは、多くの人の人生に影響を与える。サッカー好きな著名人の方々に、ワールドカップの思い出について語ってもらう。第3回はイラストレーターの326さん。熱狂的なサッカーファンで自らFIFAをプレーしてもいるという326さんが、あふれんばかりのサッカー愛を言葉にしてくれました。

――本日はお忙しいところ、お時間いただきありがとうございます。昨シーズンのCL決勝ラウンドの時期に326さんがキリアン・ムバッペの絵をSNSに投稿されているのを拝見して、サッカーがお好きなんだということを知って。それで今回、声をかけさせていただきました。

 「なるほど、そうなんですね。あれはだいぶ前に書いたやつなんです。SNSで似顔絵を描いて、(誰か)当てられなかったら終わるっていう連載をやっていたんですけど、僕の好きが爆発しちゃって(笑)。僕のことを見てくれている方々に女性とか子供、お子さんがいる世代の人たちが多くて、逆にサッカー好きな方があまりいなくて。サッカー選手の似顔絵を描くと(誰も)当てられなくて、何度か終わりそうになったことがありました(笑)。それでも、サッカー選手で終わるならいいやと思って。それで、サッカー選手のストックは死ぬほどあるんです。

 僕は今、好きなことだけを仕事にして生きているんですけど、異常に好きなのにある意味一番仕事に関係ない唯一のものがサッカーというか。選手じゃないですし、好きなだけでニワカなのでどうしても仕事にはならないんですけど、(仕事に)なってもならなくても好きなものは好きだからってことで異常なほどの片思いが20年以上、続いているカンジです」

――そもそも、サッカーを好きになったきっかけは何だったんでしょうか?

 「僕はハンドボール部に所属していて、ゴリゴリにプレーしてたんです。ハンドボールってコートはフットサルのサイズで、かなり狭いエリアに6人対6人の12人がひしめき合うのでかなり詰まった状態でプレーすることになるんです。サッカーで言えば、(カタール大会グループステージの)オランダ対セネガルの試合でオランダがセネガルの守備を崩せなかったみたいな。ああいう詰まった状態というのがハンドボールの場合は普通で、僕はサイドプレーヤーだったんですけどキャプテンで戦術を考えたりもしていて、詰まった状態をどうやって崩すかというのを真剣に考えながらプレーするというのを経験していたんです。

 ただ、ハンドボールの試合って日本でなかなか見られなくて、それでルールが一番似ている競技はなんだってなった時に、やっぱりサッカーだなとなって。もともと普通の人並みには好きで見てはいたんです。深夜起きて見ていて学校に遅刻するくらい(笑)。あとは、なかなか(試合の映像が)手に入らないのでVHS使って見たりしていました」

――(笑)。その時点で普通の人よりは相当に好きそうです。

 「そうですか(笑)。そういう時期はあったんですけど、大人になってお金が使えるようになって一番使ったのはサッカーですね。今は(試合を)見るためにいろんなところにお金を払わないといけないじゃないですか。そういうカンジで、自分の一番の“わがまま”をぶつける場所がサッカーになっています。

 あとは、サッカーゲームのFIFAもプレーしていて、11人対11人でプレーするプロクラブを1日4時間ぐらいやっています。自分が考えた戦術がどれくらいハマるかを体で試す、みたいなことをやっているんですけど、この取材に来る前は日本対ドイツの試合で自分が考えるスカッドを組んで、CPU同士を戦わせてシミュレーションしていました。0-1で日本が負けちゃったんですけど90分近くまで0-0で行ってて、勝ち点1もぎ取れると思ったらハベルツか誰かに取られちゃって……。あまりにも腹が立ったので、自分で動かしてCPUをボコボコにしました(笑)。

 そうやって試すのが好きで、ファンが自分で考えてワクワクできるもの、始まる前の楽しみ方が一番楽しいスポーツって僕はサッカーだと思ってるんです。なので、自分でスカッドを組んでそれをSNSにアップしたりしているんですけど、例えばインタビューなんかも参考にしながら理由付けをして、いろいろと考えながら(スカッドを)組んでいくのが好きで。僕の性質というか、僕は今ゲームを作ったりしているんですけど、それにすごく近くて。答え合わせをして、歴史的な瞬間に立ち会ってみんなが一番盛り上がれる、国を代表する戦いがW杯だと思っています。

 みんなが1つになるって、アートが一番やきもちを焼く場所なので。スポーツ、音楽、アートがベスト3で、2位が音楽だと僕は思ってて3位と2位の間の隔たりもすごくあるんですけど、音楽の上にいるスポーツとアートとの間にはとんでもなく隔たりがあると思っていて。ある種、芸術の究極版、決定版、完成形がスポーツのような気がしていて。そういう意味でいつもやきもちを焼きながら、でもだからこそスポーツに生かされているというか。未来に楽しみがあって、生きていてもしょうがないやと思ってたとしても、あの時まで生きてたらその瞬間に立ち会えるからそれまで生きてみようっていうのは、アートでもゲームでもやらなきゃいけないことで。もうちょっとであれが発売されるからそれまでは頑張って生きてみようかなって。その中で最高のものがスポーツで、W杯が始まるまではだましだまし生きてやるか、みたいな。人が生きていくうえで、そこまで頑張ろうって思えるものってなんて美しいんだろうって僕は思うので。

 今この日々変わりゆく中で、コロナとかいろんな大変なことがあって人がもう集まれないかもしれないっていう危機感を現実的に何年も味わった中で迎えた初めてのW杯で、開会式からそうでしたけどみんながとんでもなく『うおー』って盛り上がっているのを見て、クラブチームとは違う感動があって、こういうことのために人間って生きてるんだよなっていうことを毎日感じさせてもらっていて感謝しかないなっていうのが今、感じていることです。

 ちょっと嫌なことがあっても、サッカーの試合があってワクワクドキドキしてたらその嫌なことをちょっと忘れられる、痛み止めにもなってくれるみたいな。そういうのがスポーツの力なんだなって。僕は他のスポーツも全般的に見ていて、普通の方よりは相当見ているんですけど、特にサッカーは1週間のうちにライブで見ている試合が相当数あるので、人生の何割をサッカーを見るために生きてるんだって(笑)。当然のようにW杯に向けて時差調整をしながら生きてるので(笑)。

 日本対ドイツの試合はFIFAでチームを組んでいて、夜な夜な集まってサッカーの話をしている仲間たち5、6人と見ようと思っているんですけど、家でやったら怒られるので(笑)、彼らと試合を見るためだけにレンタルルームを借りて、プロジェクターを自分で用意して、Fire Stickを差して準備して。こういう時のために生きてるんだなって日々感じながら生きてるので、本当に始まったんだなっていうがなんか不思議なカンジです。

 ありもしないことを、自分の世界線で考えて想像していくのが楽しいんですよね、日本の3バックとか。そういえば、日本ってずっと[4-3-3]を使ってて[4-2-3-1]に変えましたよね?」

――そうでした。

 「その前に僕、SNSで『1回[4-2-3-1]に戻そうか』って話をしてたんですけど、そうしたら本当にそうなって。ある種素人考えだけどずっと向き合って考えていたら、考えていることとか向き合っている壁への対処法とかって同じことになるんだって思ったんです。3バックも勝手に提唱してたら、(カナダ戦の)最後に試してましたし。一見失敗に終わったように見えているかもしれないですけど、僕は素敵だなと思いました。最後に山根選手が決めていたらめちゃくちゃカッコ良かったし。社会と関係なく生きてるようなカンジがするけど、意外とリンクするんだなって思って非常に楽しいなって……すみません質問もされてないのにベラベラしゃべっちゃって(笑)」

326さんが描いた「3バック案」のイラスト

――いえいえ、こんなにもサッカーがお好きだとは知らずちょっと面食らっていました(笑)。

 「気持ち悪いですよね(笑)」

――そんなことないですよ。ハンドボールをやられていたんですね。高校の時に体育でプレーしたことあるんですが、ポジションで45とかありますよね。

 「45は花形で、身長ある人じゃないとできないFWですね。僕はサイドプレーヤーで、キャプテンだったんで誰よりも走るっていう。今で言うスプリントの回数がチームで一番多くなきゃいけないから、長友選手みたいに誰よりも走って誰よりも練習してって姿を見せることでしかみんなに伝えられないからってずっとやっていたので。

 ベテランの話で話題になってましたけど、(2010年南アフリカW杯の時に)中村俊輔選手が出られなくなった時に松井選手に水を渡す姿とああいうのがベテランのやることなんだっていうのを見てとても感動したし、そうだよね、社会と同じだよねって思って教えられることがとても多かったです」

暗黒期に現れた、悲劇のヒーロー

――こんなにサッカーが大好きな326さんにとって、思い出のW杯と言えばどの大会になりますか?……

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Profile

久保 佑一郎

1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。

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