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日本代表のロールモデルはクロアチア?ドイツとスペインから学んだ「強固なゲームモデル」の表と裏

2022.12.16

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの本音トーク~

毎号ワンテーマを掘り下げる雑誌フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のテーマは「カタールW杯での日本代表総括」。帰国直後の川端さんがその熱量そのままに、ドイツ、スペインに感じた「完成度が高すぎる」問題、そこから学べる日本代表の進むべき道を熱く語った。

今回のお題:フットボリスタ2023年1月号
「新型3バック隆盛の5つの理由」

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

バル・フットボリスタが書籍化!

「3バック特集」がまさかのジャストフィット!?

川端「やあマスター、久しぶり」

浅野「え、また来たの(笑)。もうカタールから帰国したんでしたっけ?」

川端「ちょうど一昨日に帰ってきたところですよ。寒暖差で脳がバグってるけど……」

浅野「日本代表の歴史的な戦いを現地で見られて良かったですね。こっちは雑誌の校了日がクロアチア戦と重なって大変でした(笑)」

川端「その雑誌に『日本代表のグループ総括』を、クロアチア戦の結果がわからない状況で寄稿しないといけないから、どう書くか凄く迷いながら書きましたよ(笑)。しかしドイツとの初戦が終わった時は『こんな試合、もう一生観ることがないんだろうな』と思ったけど、1週間後にまた観ることになるとは(笑)」

浅野「スペイン戦も凄い試合でしたね」

川端「今大会は日本に限らず、なんとなく盲信されていた『サッカー常識』みたいなのを揺さぶられる機会になりましたね」

浅野「じゃあ、まずその日本代表の振り返りからいきましょうか。前回のバルで次号のボリスタが3バック特集という話をしていて、川端さんは日本代表も3バックをやる可能性を示唆していましたよね。俺は『ぶっつけ本番はないだろうな』と思っていたら、いきなりやってきたね(笑)」

川端「やってきたのは予想の範囲内ですが、やり方は予想の範囲外でした(笑)。スペインみたいなチームに対する防衛手段としての3バック(5バック)はあるだろうと思っていたんですが、森保監督は攻勢の布陣としても運用してきたので。まさか後ろ同数を受け入れ、前から狩りに行く手段としての3バックを見せるとは!」

浅野「俺もやるとしたら専守防衛の5バックと言っていて、川端さんは後ろを固めながら、前田や浅野、三笘といったスピードのある選手たちを生かして刺すやり方を想定していましたよね。ドイツ戦やスペイン戦での森保監督の選択は前からハメて行く[3-4-3]でした(笑)」

川端「それはドイツやスペインも想定できていなかったと思う」

浅野「今でも俺たちは常識的な判断をしていたと思うんだけど、それじゃあドイツやスペインには勝てないということなんだろうなぁ」

川端「そうなんですよ。でもドイツやスペインを倒さないと上に行けないのはあのグループ分けになった時点でむしろ前提になっていたので、別の方法論をぶつけるのは必然だったんでしょうね、森保さんの中では。ドイツ、スペインとやって、刺しちゃうんだからね。ドイツ戦終わって『こんなやり方に再現性はない!』と言っている方もいたけれど、スペイン戦ですぐに再現されてしまった(笑)」

浅野「むしろ、コピーのような試合だったからな」

意表を突く采配で世界を驚かせ、見事にドイツ、スペイン相手の逆転劇を演出した森保監督

「強固なゲームモデル」の欠点とは?

川端「その意味ではドイツやスペインが、守田の言葉を借りるところの『強固なゲームモデル』を持ったチームだったからこそではあるんだよね。日本に再現性があったというより、相手に再現性があった。何をしたいか明確にわかるからハメやすかった」

浅野「クロアチアみたいに蹴ってこなかったしね。普通、相手があそこまで前プレをかけてきたら蹴ると思うけど、まさに『強固なゲームモデル』の弱点が出たのはある。特にスペインは顕著だった」

川端「クロアチア戦前にロブレンにプレスをかけろ!みたいな記事を見たけど、それだとダメなんですよね。だって彼はシンプルに蹴るもん(笑)。むしろスペインのGKウナイ・シモンのような自分の巧さに絶対の自信を持つ選手にこそプレスの罠を掛けにいく甲斐がある。強固なゲームモデルがあるゆえに、プレスをかけられた時の彼の出す次のパスも想定できるわけで」

浅野「そういえば、結局ロブレンのキックに沈められたのは皮肉でしかない(苦笑)」

川端「素晴らしいキックでした……」

浅野「ルイス・エンリケも試合後に言っていたけど、あのまま日本が前プレを続けていたら、3-1、4-1にできた可能性も高かった。前田、三笘、伊東という大会全体でも上位のスピードを持つ3人に特攻プレスをかけられて蹴らないのは、ぶっちゃけあり得ない。あのまま続けていたら、普通にスペインは死んでいたと思います」

川端「エンリケは『パニックになっていた』とも言っていたけれど、これはドイツも同じだよね。W杯のプレッシャーの中だと、ドイツやスペインの一流選手たちでもああなるのかというのは驚きでもあった」

浅野「ドイツもスペインも『良いチーム』だったと思うよ、今でもね。戦術的な完成度で言えば、大会屈指だったんじゃないかな。ただ、ピッチから秩序が消えてカオスになり、個と個の勝負になった段階で日本と差があったのかと言えば、実はそうでもなかった。ほぼ拮抗していて、ポジションによっては日本が勝っているマッチアップも結構あった。そうなるともう、ドイツもスペインも混乱しかないよね。前半が一方的に圧倒していただけに、ピッチ上の選手たちは『こんなはずじゃない!』という思いだったはずだよ」

川端「そこは森保さんもポイントとして挙げてましたね。そもそも日本も1対1で戦える選手を並べているからこそだよ、と。実際、スペイン戦のデュエル勝率は日本がスペインを地上戦でも空中戦でも上回っていますからね」

浅野「ドイツもスペインも、パニックになっている後半の時間帯に監督が出てきて必死に声を張り上げて修正しているんだけど、まったく効果がないどころか逆効果になってる部分もあったよね。W杯の大歓声でかき消されているのはもちろん、受け取る側の選手の心理状態もあって、修正が効かなくなっていた。ハーフタイムを除いて監督のできることの限界みたいな部分も突き付けられる試合だったんじゃないかな」

川端「サッカーゲームだと駒のように選手が動くし、アマチュアの試合ならお客さんもいないから監督からの声もよく浸透するけど、トップレベルだとそうはいかないですよね。だからピッチの中での解決能力が問われる。そんなことは言い古されているわけだけれど、寄せ集めの代表チームだとやっぱりそこは大事ですよね。一流選手のそろう国の代表チームがああなるのを観て、あらためて痛感させられたというか、勉強にもなった」

浅野「実際、スペインがルイス・エンリケのゲームモデルを守りながら、ピッチ上でできる修正はなかったんじゃないかな。日本はリスク覚悟で前から来ていて、しかも前線個々のスピードもめちゃくちゃ速くて、インテンシティも高い。これをかわすほどのクオリティでのビルドアップは代表チームでは厳しいんじゃないかな。もう蹴るしかない。でも、ルイス・エンリケが『繋げ』と厳命しているスペインはそれを選択できなかった」

川端「あそこで監督の意に背いた選択をしてでも勝利にこだわりそうなDFをルイス・エンリケはメンバーから外していますからね。あと修正する最中に日本も選手を入れ替えて戦い方がどんどんアップデートされてったのも大きかったと思います。ドイツとスペインを破るにあたって、5人交代の活用という大会のルール変更に対して森保監督は本当によく適応して利用していたと思う」

浅野「そうそう。ドイツ戦は伊東のポジションが何回変わったんだというくらいマイナーチェンジを繰り返したからね。これにベンチからの指示で対応するのは無理だよね。まさに5人交代の有効活用」

川端「ルイス・エンリケ監督は選手の背中にスピーカーがついてればと思っただろうね(笑)」

浅野「それが可能なら、監督が完全に主導するやり方でもいけるかもしれない(笑)」

川端「ああいうトレーニングは『やりたいこと』を早期に浸透させて共有する効果はあると思うけど、『やりたいことがやれない時』への耐性というか、適応力みたいなのが落ちちゃうのかもなと思った。モロッコとの試合でも、スペインのやり方はさすがに一辺倒過ぎると思った」

浅野「時間がない代表チームだからこそ一つの方向性を徹底する、ということだったのかもしれないけどね」

川端「善くも悪くも後期吉武ジャパンを思い出しました。ロドリのCB起用とかの配置もそうで、一人ひとりめちゃくちゃ上手いし、ビルドアップを観ているだけで面白いですけど、個人で打開するようなプレー、あるいは打開できる選手そのものが選ばれていない感じも似ている……という話をしても何のことかわかる人は少ないかもしれませんが(笑)、W杯レベルの守備の中での貫通力みたいなのが足りなくなっていましたね」

浅野「あれがコンセプチュアルなチームの限界ではあるのかなとは思った。見ていて面白いサッカーではあるんだけど」

川端「日本でアレをやろうとしたらスペイン代表の縮小コピーにも届かない何かになっちゃうだろうなとも思った。スペインみたいに育成から統一感を持って取り組んでああなっちゃうわけだから」

浅野「ただ、ビルドアップのところとか勉強になる要素もたくさんあるから、学べる部分は絶対に学んだ方がいい。スペインは教科書のようなチームだったし、ドイツもうまかったから」

川端「ただ、その立ち位置が絶対になっちゃうと、クレイジープレスに対応できないこともわかった(笑)」

浅野「本来そうなれば蹴ればいいだけだから!」

川端「いや、それをやらせない『強固なゲームモデル』だからというのもあるけど、そもそもドイツにもスペインにも蹴ったボールを生かせるようなCFもウイングもいなかったでしょう。ジルーやエンバペがいるなら、心置きなく蹴れますけど」

浅野「いや、ゼロかイチかの話ではなく、基本はルイス・エンリケのサッカーで良くて、その中にセルヒオ・ラモスとかピケとかもうちょっとピッチ上で判断できるリーダーを入れて、相手の出方や試合展開に応じて多少柔軟にやればもっと楽に勝てたと思うよ。スペインがそういう最低限の柔軟性を持っていたら、日本は絶対に勝てなかった」

川端「どうだろ。例えばセルヒオ・ラモスがいたとしたら、もっと前にルイス・エンリケ監督と衝突してチーム崩壊しているんじゃないですか? サッカーはやっぱり人間がやるものだし、チームは人間の集団だからさ。そもそも『セルヒオ・ラモスのような選手ですら容赦なく外される』という厳しさを打ち出すことで、あの強固な戦術的規律をルイス・エンリケ監督は現出させていたんだと思うし」

浅野「それはそうかもね。ただ、だからこそ今回の勝利はまぐれじゃないとも思うんだよね。むしろ、今となってはスペイン戦に関しては、日本が勝つ可能性の方が高いとすら思ってしまう。だって、日本の強度の高い前プレにどうしようもないんだもん。蹴ればいいだけなのに蹴らないんだから」

川端「吉田麻也が『スペインに裏蹴りはない。だからラインを高く上げ続けることができた』と断言していたのだけれど、そう断言させちゃうのがスペインの戦術的な、というかサッカー的な弱みだったよね。そもそも蹴って競り勝てる、走り勝てるようなタレントも前に置いてなかったわけだから」

浅野「ワンパターンだったのは否めない。個人的には好きなタイプのチームだけに、もったいないと思っちゃう部分はある。あとちょっとのさじ加減だったのに、他の選択肢を全部捨てちゃうから……」

練習中に議論を交わすセルヒオ・ラモスとルイス・エンリケ。写真は2018年9月

クロアチアに見た“日本的[4-3-3]”の理想

川端「さらに逆に言うと、『クロアチアに何であのプレスをしなかったんだ!』みたいな評価もナンセンスだと思うんですよ。だって彼らに強固なゲームモデルはないから。その意味でクロアチアはマジでやりにくかった。日本をリスペクトしてきたし。もっと舐めてきてほしかった(笑)」

浅野「日本対クロアチアは下馬評からして五分五分だったしね」

川端「彼らの[4-3-3]って日本の目指していたものだと思う。日本が当初やろうとしてた田中、守田、遠藤の3枚を使った[4-3-3]って、モドリッチ、コバチッチ、ブルゾビッチの3センターが理想に近い。よく森保ジャパンの[4-3-3]って『バルセロナやスペイン代表とここが違う!だからダメ!』みたいに言われていたけれど、ああいう動かないアンカーを軸にしたサッカーはそもそも想定していないわけで。俺は『察しと思いやり』の[3]だと思ってたんだけど、クロアチアはまさにそれを高度なレベルで実現していた。3人が幅広く動き回りつつ、互いの役割を状況に応じて受け渡しながら、サッカー的に機能させる」

浅野「なるほど、クロアチアの中盤3人の補完関係は確かにそうだね。日本的な中盤でした」

川端「『高度な柔軟性を維持しながら臨機応変に対応する』という不可能を可能にしていたクロアチアの中盤には、あらためて感銘を受けながら観ていた。ドイツやスペインとの違いは、ピッチ上での解決能力の高さ。まあ、『モドリッチ監督』がいるので(笑)」

浅野「ただ、日本はアジア最終予選での[4-3-3]を本大会に向けて捨ててしまったのはもったいなかったよね」……

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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