光るデシャンの選手操縦術。今宵もピンチをことごとくチャンスに変えて【フランス 2-0 モロッコ】
翌日更新!カタールW杯注目試合レビュー
史上3カ国目、60年ぶりのW杯連覇へ。王者フランスが5分にテオ・エルナンデス、79分にコロ・ムアニ(途中出場)が決めた2ゴールで躍進モロッコを退け、アルゼンチンが待つ決勝に駒を進めた。
本来いない“代役”たちが次々とヒーローに
ピンチがことごとく「表目」に出ている。
準決勝でモロッコを2-0で破り、2大会連続の決勝進出を決めたフランス代表を一言で集約すると、そんな感じだ。
試合は、開始5分にテオ・エルナンデスがまるでアニメみたいなシュートを決めてフランスが先制した。モロッコサポーターだけでなく、地元カタールのアラブ人たちも応援に回り、フランスがボールを持つたびにブーイングが響き渡ったアルバイト・スタジアムは、まさにモロッコのホーム状態。そんな中でのキックオフまもなくのこの得点は、「その後の試合運びを楽にしてくれた」とDFジュール・クンデら仲間の選手たちが称賛した殊勲のゴールだった。
その立役者テオ・エルナンデスは、大会初戦のオーストラリア戦で兄リュカ・エルナンデスが負傷したことにより、出場機会を得た。
「兄がうずくまっているのを見て本当に辛かった。僕は兄の分まで、2人分プレーする」
そう意気込みを語ったように、テオはそのスピードを生かして、左サイドのキリアン・ムバッペと絶妙なコンビを形成。そしてこの重要な準決勝では、価値ある先制点をマークした。
また、この試合でフランスメディアがこぞって「マン・オブ・ザ・マッチ級の活躍」と絶賛したCBのイブラヒマ・コナテは、初戦から先発出場していたダヨ・ウパメカノが体調不良により欠場したことで抜擢された。チーム最多の5インターセプトを記録した彼は、44分にハキミのドリブルをタックルで食い止め、54分にはゴール真ん前でボールを弾き出すなど、数々のファインプレーでレ・ブルーを救った。
そして、78分に投入された直後のプレーで2点目を決めたFWランダル・コロ・ムアニ。彼も本来ならこの大会にはいなかったはずの選手だ。カタールに出発する直前の、フランス国内での最終トレーニング中にクリストファー・エンクンクが膝の靭帯を負傷し、急きょ追加招集されたのだ。
開幕から振り返っても、カリム・ベンゼマの負傷離脱によってチャンスを得たオリビエ・ジルーが初戦のオーストラリア戦で2得点。エンゴロ・カンテとポール・ポグバの不在によりレギュラーとなったアドリアン・ラビオは、モロッコ戦は体調不良で欠場したが、それ以外のゲームでは試合中の走行距離やアタッキングサードに展開したパスの数でチームNo.1の数字を叩き出すなど、MVP級の活躍ぶりだ。
戦術面でも、準備段階で十分に機能しなかったために3バックを断念し、両サイドにムバッペとウスマン・デンベレのスピードスターを据えた[4-2-3-1]にスイッチしたことが、結果的により威力を発揮している。
「起用されていない選手でも、いつでも決定的な存在となれる」
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。