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【日本代表総括】カタールW杯で手にした収穫と課題。強豪国を打倒した「予測不可能性」と、中堅国に劣った「再現性」

2022.12.16

日本戦徹底解剖

12月6日、カタールW杯ラウンド16のクロアチア戦、120分間の戦いの末にPK戦で敗れ、日本代表の歩みはベスト16で終わりを迎えた。グループステージではコスタリカには敗れたものの、ドイツとスペインに逆転勝利。公式記録で言えば2勝1分1敗、得点は5で失点は4だった。未来を見据えるために、今大会から学んだことを山口遼氏が総括する。

 思うに今大会ほど総括や評価が難しい大会も中々ないだろう。

 過去に目をやれば、4年間を通じた準備に対する評価は決して高くはなかった。

 アジア最終予選では苦戦を強いられたし、披露されるフットボールは一見すると単調で、代表人気は低迷した。一方で、大会中の戦いぶりはまさに殊勝。格上かつ優勝候補と目されていたドイツ、スペインをともに2-1の逆転勝利で破り、前大会準優勝のクロアチア代表をあと一歩のところまで追い詰めた。森保一監督を含めた日本代表の戦いぶりは、まさに“国民的イベント”と呼ぶにふさわしい盛り上がりをもたらした。歴史的なジャイアントキリングを立て続けに起こしたことは世界的にも絶賛され、“瞬間最大風速”で言えば出場した歴代のW杯の中でも最高だったかもしれない。

スペイン戦後、カタールまで駆けつけたサポーターと勝利を喜び合う日本代表メンバー

 しかしながら、JFAが掲げる長期的なビジョンとしてのW杯上位進出(果てには優勝)という意味では、今大会もベスト8の壁を越えられなかった事実から目をそらすべきではないだろう。PK戦に関しても様々な議論がされていたが、PK戦に臨む準備ができていなかった、それが“ベスト8との差”という結論でいいのだろうか?

 つまるところ私たちは、今回の日本代表をどのように総括すれば良いのだろうか。

 大会前の評価は決して高くなく、大会が始まれば最高の盛り上がりを提供し、でも結局は目標を越えられなかった。日本サッカーは前進したのか、あるいは停滞しているのか。

 いずれにしても、今大会を良かった/悪かったと二項対立的に“採点”するのはナンセンスだ。良いところもたくさんあったし、もっと改善できるところもたくさんあった。そんな混ぜこぜで玉虫色の評価こそが今大会の総括だと感じている。重要なのは今大会を良かった/悪かったと一言で断じてしまうことではなく、W杯という大会が我々に返してくれたフィードバックを受け、反省し、さらに実力を伸ばしていくことだろう。なぜなら私たちはまだ“W杯優勝”という大目標も、“ベスト8”という小目標すら達成していないからだ。そのためにこの記事では極力各事象にフラットに向き合い、評価し、これからの展望について語りたいと思う。

再現性あるビルドアップができないのは、なぜか?

 大会期間中は劇的な戦いを見せた日本代表だったが、それでも見逃せないのはベースとしての「フットボールの質」はこの4年間一貫して高まらなかったという事実だ。

 ベースとしてのフットボールの質、というと曖昧でフワッとしてしまうので、より明確に定義しよう。ここでは「ゲームプラン」や「作戦」レベルまでは含まない、いかなる試合でも基準となる自分たちのゲームモデルの完成度であり、いわゆる「勝率」を高める作業だ。これは、各局面をそれぞれ評価することで、かなり演繹的な評価が可能な領域だ。

 森保監督が率いる日本代表が得意としていたのは、これまでも繰り返し主張してきた通り[4-4-2]をベースとしたミドルプレスであり、そこからハイプレスへ移行した時に得点確率が最も高まるというのがこの4年間一貫した傾向だった。そのような意味では、本大会ではより守備的な側面を重視して[5-4-1]のブロックをより低い位置に作ることになったものの、ベースとしてのミドルブロックは機能していたし、スペイン戦の得点に代表されるように“勝負どころの10分間”に見せるハイプレスからのショートカウンターもハマっていた。

 しかし、強みであるミドルブロックにしても決して他国と比べた中で完成度が際立っていたわけではない。むしろ、戦術的な完成度という意味では、今大会の中堅国はモロッコ、スイスに代表されるように非常に美しいゾーンディフェンスを武器に躍進している国が目立った。クロアチアとの試合でも守備局面における戦術的な完成度の差を見せつけられたように思う。特に、ゾーンディフェンスの第一の原則である「ディアゴナーレ」、すなわち斜め後ろのカバーリングによって効率的にスペースを消すアクションに関しては、それを律儀に行い続けるクロアチアとの間に明確な差を感じた。日本代表は個々がアプローチを“頑張る”のだが、カバーリングに入るべき選手が“個々のマーク”(本来ゾーンディフェンスにおいてマークという概念は存在しない)を気にして距離感が遠いことが多く、結局縦パスを通されて中盤のラインを越えられることが大会を通して何度も見られた。

 にもかかわらず、日本代表のハイプレスがハマったりブロック守備が機能するのは、日本人選手のクオリティが非常に高いからだ。この局面で言えば、世界中が日本に関して警戒する理由の1つである「アジリティの高さ」が際立っていた。配置が多少雑でも切り返しによる状況のリカバリーが早く、移動が短距離であればあるほど判断のミスや配置のミスが顕在化しにくかったのだ。特に遠藤航は、アジリティを生かした守備の修正能力が世界的に見てもかなり高く、“彼がいたから守れている”場面は良くも悪くも散見された。

クロアチア戦でマルセロ・ブロゾビッチと交錯しながらボールを争う遠藤

 悪くなかったミドルブロックに対して、大きな課題が見られたのがビルドアップの局面だ。GKを使った低い位置でのビルドアップも含めて、マイボールをチームとして前進させるようなデザインは、ほとんど見られなかった。世界のサッカーを見ると、ポジショナルプレーは標準化されたとすら言われていて、このW杯の舞台でも強豪国はもちろん、中堅国ですら整理された配置を基調とした前進を見せていた。強豪国以外で目立っていたのは、カナダ、アメリカ、オーストラリア、スイス、カタール、韓国などだろうか。中堅国ですらこれだけビルドアップやボール保持がデザインされている状況で、日本代表がボール保持で遅れを取り、戦略的な引き出しが足りない戦いを強いられたのは無視できないポイントだ。

 日本のビルドアップの問題点は、ボール保持時の配置が整理されていないことだろう。それは、フォーメーションを変更するたびにビルドアップ時の配置やダイナミクスがコロコロと変化することからも推し量れる。日本代表のビルドアップが最も上手くいっていたのは、アジア予選の終盤に[4-3-3]を採用した時だった。この時は両ハーフスペース、幅と深み、アンカーポジションというビルドアップにおける肝要なポジションを自然と埋められる配置だったこと、また同様の配置でビルドアップすることに慣れている川崎フロンターレの面々を中心的に起用したことが大きかったように見える。

 しかし、本来[4-3-3]でビルドアップがある程度できるのであれば、ベースのフォーメーションを[4-2-3-1]にしようが[3-4-2-1(5-4-1)]にしようが、攻撃時の配置や役割配分を似たような形にすることは難しくない。

 が、直前の強化試合からフォーメーションを[4-2-3-1]に戻すや否や、上手くいっていた前進のための整理された配置は一気に消え去ってしまった。具体的には、先ほども挙げたビルドアップにおける重要なポジションに誰がいるのかが曖昧になり、いてほしい場所に人がいない、逆にいなくていい場所に人が多いという現象が頻発した。アンカーポジションはこれまで通り遠藤が占有すれば良いものを、ダブルボランチで役割を曖昧にしてしまったことで肝心のアンカーポジションが空白の時間が多くなった。トップ下はどちらかのサイドのハーフスペースにいることを基本にして(実際ドイツのミュラーはずっと右のハーフスペースにいた)、反対のハーフスペースは逆側のサイドMFが取るように整理するのが[4-2-3-1]のビルドアップのシンプルな形だが、そのような決め事はなくボールサイドのハーフスペースの奥に選手がいないことが頻発していた。他国の代表チームが当たり前のようにできていることなので、欧州組で占められている今の日本代表ができない道理はないはずだ。

 ミクロな意思決定の傾向に目を向けても、フリーになったCBが運ぶドリブルをする、プレッシングに対して誘導されずに複数の選択肢を持ってプレーするといった、高度な意思統一を必要としない原則に関しても共通認識は見られなかった。フリーのCBがすぐにパスをしようとするので後ろが重くなりラインを越えられないし、相手のプレッシングの誘導に乗ってサイドにボールをつけるので再現性を持ってビルドアップがハマってしまう場面が何度も見られた。これらは個々の技術ではなく、チームとしての判断基準の領域だ。それでも個人のボールタッチの正確性やドリブル技術などによってビルドアップの出口が作れてしまうこともあったが、総体的にはビルドアップ/前進の局面では個人のクオリティによるごまかしが効かず、苦しむことが多かった印象だ。

コスタリカ戦ではこう着状態を打破すべく62分に三笘薫を投入したものの、左ウイングバックを担うドリブラーまで綺麗にボールが届かず、前を向いて仕掛けられるシーンは限られていた

 このように、今では中堅国ですら当たり前になった戦術的な構造をチームとして持っていないこと、そのために各局面で相手チームに対して再現的に優位な状況を作ることができなかったことは明確に課題だったと言える。

「個の育成」の成功と、今後への難しい舵取り

 東京オリンピックに続き、今大会でも改めて確信したのは、日本人選手の個のクオリティは極めて高いことだ。おそらく世界で見ても準トップクラスには入ってくるレベルだろう。同じベスト16敗退の国の中で言えば、スペインの次くらいには位置していると感じた。

 長らく「個」が足りないと言われていた中で、大会2位の球速でミドルシュートを突き刺す堂安、軽々と2人はぶち抜いてしまう三笘、逆にワールドクラスのアタッカーに1対1で仕事をさせない冨安と、W杯の舞台で個人のクオリティが武器になる代表チームが見られるようになるとは思わなかった。

 シュートやクロスなど、「強いキック」のクオリティにはまだ向上の余地があるように思うが、それ以外のあらゆる技術の水準は間違いなく世界でも上位になりつつある。これは日本サッカーの育成の大きな成果の1つである。だが、だからこそこれだけのクオリティの選手たちをもってしても[5-4-1]で低い位置にブロックを敷く戦い方を“選ばざるを得なかった”ことが課題たり得る。……

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Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

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