ポルトガルの攻めをシャットアウトしたモロッコの“中盤ラインでの5レーン守備”を紐解く
深堀り戦術分析スペシャルレビュー
ラウンド16でPK戦の末スペイン代表に競り勝ったモロッコ代表の守備力と、スイス代表に6-1で圧勝したポルトガルの攻撃力が激突した準々決勝のモロッコ対ポルトガルは、ポルトガルの攻めを封じ込め虎の子の1点を守り切ったモロッコが勝利。アフリカ勢史上初となるベスト4進出を果たした。好対照なチームの対戦となった一戦の戦術的ポイントを、とんとん氏が詳らかにする。
カタールW杯準々決勝モロッコ代表対ポルトガル代表。今大会屈指の充実した陣容で臨むポルトガルに対し、ここまで4試合で1失点の堅守を武器にベルギー代表やスペイン代表といった強豪を破り勝ち進んだモロッコがまたしても大金星を挙げる結果となった。
試合の趨勢としては予想通り、今大会最高レベルの堅守を誇るモロッコの[4-1-4-1]守備ブロックを穿つために、ポルトガルが様々な手を打つという形で進んでいった。
嵐のようなポルトガルの猛攻を耐え、この試合でもクリーンシートを達成したダークホース・モロッコの守備はどのように機能したのか。そしてポルトガルはその堅守にどう抗い、打開の筋道を立てたのか。
白熱の一戦の戦術的ポイントを分析する。
モロッコの[4-1-4-1]守備のメカニズム
前半のポルトガルの攻撃は、CHのルーベン・ネベスがCB間に下りた[3-2-5]で組み立てが行われた。対するモロッコの守備陣形は[4-1-4-1]。5バックを用いて敵の5レーン攻撃を抑える守備は今やスタンダードになりつつあるが、モロッコの場合は中盤に5枚を敷いて5レーンに対応する形を採っている。そのため、いかに中盤のラインを越えさせないかが重要となる。
では、具体的にどう守るのか。
敵のビルドアップ局面において、ボールホルダーであるCBに対してIHがアタックをかける。この時、ボールホルダーのCBとプレッシングをかけるIHは同レーンに立つこととなる。5レーンに対応した守備だ。
そのため、両脇の選手(CFとSH)がやや絞ることで、IHは難しいことを考えずに真っすぐにプレスをかけるだけで良い。
簡単に言えば、このIHのチャレンジとCF&SHによるカバーによる中盤5レーン対応守備をひたすらに繰り返すのが、今大会最高レベルの堅守を誇るモロッコの守備戦術である。
この時IHの背後に発生するスペースに関しては、アンカーのソフィアン・アムラバトがケアを行う。彼はあらかじめスペースを消すというよりも、そのスペースで受けた選手にボールが入った瞬間に寄せる。ボールが入るまではスライドし切らず、すぐに寄せられる位置までのスライドに留める。IHのプレス時にこのスペースへのパスコースの大半が切れているうえに、ここでアムラバトがスライドし切ってしまうと、逆サイドに振られた際に大きなスペースが出来上がってしまう。1対1の守備で負けない球際とフィジカルの強さも持ち合わせているためにこういった守り方が可能であり、モロッコの守備戦術を支えている。
上記のモロッコの守備に対して、ポルトガルが攻略を図る形で試合は進行していく。
前半のポルトガルの打ち手とモロッコの対応
前半のポルトガルの打ち手は2つ、オーバーロードとサイドチェンジだ。……
Profile
とんとん
1993年生まれ、長野県在住。愛するクラブはボルシアMG。当時の監督ルシアン・ファブレのサッカーに魅了され戦術の奥深さの虜に。以降は海外の戦術文献を読み漁り知見を広げ、Twitter( @sabaku1132 )でアウトプット。最近開設した戦術分析ブログ~鳥の眼~では、ブンデスリーガや戦術的に強い特徴を持つチームを中心にマッチレビューや組織分析を行う、戦術分析ブロガー。