指揮官も認める劣勢をしのぎ、ベテランが決定的な仕事をやってのけたフランスが連覇へ前進【イングランド 1-2 フランス】
翌日更新!カタールW杯注目試合レビュー
事実上の決勝とも称されたイングランド代表対フランス代表の1戦。その形容に恥じぬ一進一退の攻防の末、勝どきを上げたのはフランスだった。史上3チーム目の連覇がにわかに現実味を帯びてきた。
フランス代表が1-2で勝利した準々決勝戦は、イングランド代表が勝っていてもおかしくない試合だった。
シュート数はイングランドの16本に対しフランスは半分の8本。イングランドは、そのうち半分の8本を枠内に蹴り込んでいた。
ボール支配率もイングランドが上回り(58%対42%)、パスの数もフランスの377本に対し503本と、イングランドが試合をコントロールしていたことは数字も示しているが、そんなデータを頼らずとも、イングランドは右ウイングのブカヨ・サカを起点に何度もいい形で切り崩し、32歳の右SBカイル・ウォーカーは前戦のポーランド戦で痛快な2点を決めた韋駄天キリアン・ムバッペを向こうに回し、1度しか抜かせなかった。
フランスのディディエ・デシャン監督も試合後に認めている。
「相手はあらゆるエリアに高いクオリティを有していた。だから我われはそれに対応する必要があったが、その中で我われにうまくできていない点があったとしたら、それは相手が我われにそれをさせてくれなかったからだ」
オーレリアン・チュアメニが17分に見事なミドルシュートを決めてフランスがリードを奪った後、そのチュアメニが今度はサカを倒してイングランドにPKを献上。
これを主砲ハリー・ケインに決められ、試合開始から54分経過した時点で1-1と、スコアは振り出しに戻された。
その後はイングランドが押し込む時間が続きフランスが耐える展開となったが、ここで均衡を破ったのは、またしてもベテランのオリビエ・ジルーだった。
アントワーヌ・グリーズマンの左サイドからのクロスにぴったりとヘッドで合わせ、自身が持つフランス代表での最多得点記録にさらに積み上げる53得点めをマーク。これが決勝点となり、フランスがベスト4進出を決めた。
肝心な時に仕事はしても、中心にはなっていない
「(勝利を導き出せたのは)選手たちが持つ精神的な強さ、なんとかしようとする経験だ。経験不足という点では若い選手もいるが、チーム全体の総合力が発揮された。我われはチームプレーで耐え抜いた」
こうレ・ブルーの指揮官がチームを称えた通り、最後はフランスがよく耐えた、という戦いとなった中、この試合で決定的な仕事をやってのけたのはベテラン勢だ。
今月で36歳になる主将のウーゴ・ロリス、決勝弾を決めた同じく36歳のジルー、31歳のグリーズマン、そして29歳のCBラファエル・バラン。彼ら4人は、レ・ブルーが世代交代期にあった2014年のW杯からともに戦ってきたメンバーだ。
ロリスはこの試合で代表143キャップを記録し、歴代出場数で単独ナンバー1となった。ただここ最近では以前のような支配力が失われ、国内では「そろそろ守護神交代か?」という声も挙がっていた。
27歳の後輩マイク・メニャンは、2020-21にリールとともにフランスリーグのタイトルを獲得すると、新天地ミランでもセリエAの年間最優秀GKに選出され、世界トップクラスのGKに成長している。
9月のオーストリア戦での負傷がなければ、今大会はメニャンが正GKを務めていた可能性もあった。
イングランド戦の前、イングランドのメディアが普段プレミアリーグを主戦場とするロリスを“挑発”している。
ゴールエリア内での攻防戦が厳しいイングランドのプレースタイルに対して、セットプレーの場面などでロリスがフランス代表のアキレス腱になるのでないか、と報じたのだ。そのことについて、試合前日の会見で自国『レキップ』紙の代表番記者から聞かれたロリスはこう答えている。……
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。