歓喜の舞は「文化でありアイデンティティ」。ブラジルにとって分岐点となり得る快勝劇【ブラジル 4-1 韓国】
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相次ぐ負傷者もあり、どこか歯切れの悪さがあったブラジル代表だったが、決勝トーナメントに入りついに爆発。韓国代表を圧倒し、優勝をはっきりとその視界に捉えたと言えそうだ。
ブラジル代表が、ついに目を覚ました。
グループステージ(GS)第1節セルビア代表戦にリシャルリソン(トッテナム)の2得点で快勝したものの、エースのネイマール(パリ・サンジェルマン)と右SBダニーロ(ユベントス)が負傷。2人は以降の2試合の欠場を余儀なくされる。
続くスイス代表戦では相手の堅守に苦しんだが、MFカゼミーロ(マンチェスター・ユナイテッド)のミドルシュートで何とか勝ち切った。しかし、この試合でも左SBアレックス・サンドロ(ユベントス)が故障してしまう。
GSを首位で勝ち上がるとラウンド16を中2日で戦わなければならないことから、チッチ監督は最終節カメルーン代表戦でターンオーバーを敢行。スイス戦から先発メンバーを9人入れ替えた。
ガブリエル・マルチネッリ(アーセナル)らが好機の山を築いたが、相手GKの好守もあって惜しくも決まらない。後半アディショナルタイムに失点してしまい、まさかの敗戦。スイスがセルビアを3-2で下したが、得失点差で1だけ上回り、辛うじてGSを首位で突破した。
しかし、この試合でも左SBの控えアレックス・テレスとCFの控えガブリエウ・ジェズスが故障してしまう。2人はかなりの重傷で、以後の試合には出場できないことが判明。本職の左SBが1人もいないという非常事態を迎えた。
前半で勝負あり
それでも、ラウンド16の韓国戦にネイマールとダニーロが戻ってきたのは不幸中の幸いだった。チッチ監督はダニーロを左SBに、CBエデル・ミリトンを右SBへコンバート。ネイマールがトップ下で、ダブルボランチの一角にはルーカス・パケタ(ウェストハム)を起用する攻撃的布陣を敷いた。
一方、韓国はGS最終節でポルトガルに見事な逆転勝ちを収めて2位で勝ち上がったが、中2日の試合とあって疲労が抜け切れていなかった。
7分、ブラジルは右ウイングのラフィーニャ(バルセロナ)、カゼミーロ、パケタがリズム良くダイレクトパスを交換。右サイドでパスを受けたラフィーニャの低いクロスはネイマールとパケタに合わなかったが、ファーサイドでビニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)がフリーで受けると、落ち着いて右足で蹴り込んだ。
この試合開始早々のゴールで、カメルーン戦敗戦のショックが吹き飛んだ。ビニシウス、ネイマール、ラフィーニャ、パケタの4人が並んで歓喜のダンスを披露し、チームを取り巻く雰囲気が一変する。
さらにその4分後、ビニシウスの左からのクロスが韓国のDFに当たってこぼれると、別のDFがクリアする直前にリシャルリソンが 足をこじ入れ、その足を蹴られてPKを獲得。いつものようにネイマールが先にGKを動かしてから、右下へ決めた。
さらに29分、CKからの流れで両CBがゴール前に残っている状況で、右サイドでパスを受けたCBマルキーニョス(パリ・サンジェルマン)がチアゴ・シウバ(チェルシー)へ繋ぎ、シウバからのパスを受けたリシャルリソンが左足で流し込んだ。
ゴールした後、リシャルリソンはいつも「鳩ダンス」をやってチームを活気づける。鳩のように両手を後ろに回し、首を前後左右に小刻みに振りながらステップを踏むのだが、あらかじめ打ち合わせていたのか、ベンチへ走って謹厳実直なチッチ監督にこのダンスを踊らせた。喜びが爆発し、カーニバルのような騒ぎに。
こうなると、ブラジルは手がつけられない。反対に、韓国選手は大きなショックを受けている。
ブラジルは、その7分後にもビニシウスが韓国のDFの頭を越す浮き球のクロスを入れ、パケタが右足ボレーで蹴り込んだ。彼はセレソンの“ダンス部長”であり、気持ち良さそうに体をくねらせた。
この前半の4点で、試合の行方は決まった。
「僕はゴール後に踊るのをやめないよ」
……
Profile
沢田 啓明
1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。