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ウェールズのシステム変更にも動じなかったイングランドがすべての局面で上回り快勝。ウェールズで学んだFC大阪ヘッドコーチ・平野将弘がW杯初の英国対決を分析

2022.12.04

深堀り戦術分析スペシャルレビュー

W杯の舞台で初めて、イギリスに属する協会同士が顔を合わせたウェールズ対イングランドの一戦。ピッチ上で繰り広げられた攻防、勝敗を分けたポイントについてウェールズでコーチングメソッドを学び、現在はJFLFC大阪でヘッドコーチを務める平野将弘氏が分析する。

 W杯では史上初となったイギリス対決。お互いの歴史的背景やライバル関係も加味して、国内外のメディアからの注目度も高い試合となった。

 64年ぶりにW杯へ出場したウェールズ代表は、ここまで1分1敗という成績。初戦のアメリカ戦ではハーフタイムでの選手交代により、FWキーファー・ムーアを投入し攻撃の活路を見出すことに成功。ロブ・ペイジ監督は試合後に「Lesson have been learned」(この試合で教訓を得た)と、次の試合の采配に期待が高まる発言を残していた

 しかし、2戦目のイラン戦ではボール支配率こそ上回ったものの、ビルドアップでの単純なミスや敵陣での質と人数不足、ライン間の間延びやプレスバックの緩さによるトランジション局面でのウィークを露呈。試合後には「Talisman」と呼ばれ同国スター選手であるギャレス・ベイルの1試合通しての最小タッチ数(36)が話題になり、彼への過度な依存は赤いドラゴンたちの望む結果には繋がらないと指摘されていた。

 一方、優勝候補の1つでもあるイングランドは1勝1分という成績で、前節のアメリカ戦では勝ち点3を手に入れることができなかったが、ギャレス・サウスゲイト監督とスキッパーのハリー・ケインをはじめとする選手たちは試合後にブーイングを浴びせたファンや焦りを見せるメディアをよそに非常に落ち着いており、冷静に振る舞っていた。相手のアメリカに敬意を表し、1戦目のイラン戦のような簡単な試合が幾度となく訪れるわけではないことを強調した。

 ただ、試合中の選手交代に関してファイナルサードで違いを作れる選手や創造性豊かな選手を早い時間で入れてほしいという声は少なくなく、選手層の厚さを最大限に生かしたいところであった。フィル・フォーデン起用の待望論も渦を巻いていた。

お互いに変化を施してきた前半とそれぞれの成果

 ウェールズはこの試合、5バックから4バックに変える大胆なシステム変更を見せ、前節退場したウェイン・ヘネシーに代わってダニー・ウォードがゴールマウスを守る。新たにハムストリングのケガから戻ってきたMFジョー・アレンと、開幕戦ぶりとなるダニエル・ジェイムズが戦列に復帰。今までの試合ではアンカーのイーサン・アンパドゥが孤立しており、アレンのように狭いスペースで前を向けて、かつ相方のボランチを常にサポートできるMFの起用は明るい材料に見えた。

 ムーアでタメを作り、ジェイムズの爆発的なスピードを生かした攻撃回数をどれだけ繰り出せるか。ベイルが右サイドMFに入っているので、そこでの守備の秩序がどれだけ保てるか。攻撃ではベイルがどれだけゴールに近いところでボールに多く触れられるかが、鍵となると予想された。

 イングランドは[4-2-3-1]のシステムから、表記上は[4-1-2-3]のシステムに。変更点としてはカイル・ウォーカーのコンディションが回復したため右SBでスタメンに抜擢され、10番の位置でプレーしていたメイソン・マウントに変えて、インサイドハーフでプレーできるジョーダン・ヘンダーソンを起用した。もともと柔軟性の高い中盤で、ダブルボランチの際もジュード・ベリンガムはイラン戦で先制点を決めたようにBox to Boxの動きでペナルティエリアに幾度となく侵入していたので、求められる役割は変わらずだと思われる。また、選手層の厚さを生かしてついにウインガーの2人を同時に入れ替え、フレッシュなマーカス・ラッシュフォードとフォーデンをスタートで起用。前半は逆足のサイドで起用した。

 立ち上がりからお互いの力関係や対極のスタイルが浮き彫りになる。キックオフから攻撃スタイルが表れたが、これまで通りウェールズはムーアの高さをターゲットとした長いボールを使っての前進を狙った。だが、ムーアに当てた後の2人目と3人目の距離が遠く、イングランドにセカンドボールやルーズボールを拾われてサークルトップよりも低い位置でブロックを敷いた守備に時間を費やすことになる。特にビルドアップでは5バックの際も気になった点として、相変わらずSBの選手(5バック時ならWB)が両サイドともに重いので、相手が常に視野内でプレスに行ける格好になっていること。ロングボールを蹴るために意図的に相手を引き出しているならいいが、そこまでの徹底はこの試合でも見受けられない。技術レベルで相手より劣る中でプレッシャーを感じ、近い足か遠い足のどちらへパスをするかのところでの実行のエラーや、展開のロングボールのパスミスが出だしから目立つことに。

 一方のイングランドに関しては、攻守ともにプロアクティブな振る舞いを見せる。守備ではケインの前線からのプレッシングにならって、ハイプレスの際はウインガーとSBの選手の連動で縦のスライドを行う意志(基本的にウイングが相手のSBを管理→ハイプレス時はボールサイドのCBへ、SBが相手SHを管理→ハイプレス時はSBへ)が見えた。時にはIHの位置からヘンダーソンが縦ズレのアクションも見せ(その際は[4-4-2]で守れる)、彼の守備範囲の広さと強度の高さがイングランドの守備に良いスイッチをもたらした。基本的にウェールズの中盤が三角形で可変もほとんどないので、イングランドの逆三角形の中盤がピタリと噛み合って人を管理できる形となった。

大会初先発となったヘンダーソン。好パフォーマンスを披露した

 さらに攻撃では、開始10分まで相手の守備組織とどのようなプレスの戦略を持っているかを、ボールを握りながら見極めることができていた。これは試合を支配する上で重要なことである。陣形を維持したまま前進したり、相手のファーストプレスの2枚に対して後方で3+1を形成したりと様々なオプションを見せる。特筆すべき点は、後ろの3枚の作り方の柔軟性が高い点である。片方のSBの選手を落としたり(2CB+SB)、デクラン・ライスがサグ(筆者独自の表現で、中盤の選手がCB-SB間に斜めに垂れること:カーディフのコーチが使っていたSag the fullbackという英語表現が由来)をしたりしていた(2CB+アンカー)。両サイドの幅取りも、WGとSBが状況に合わせて分担しながら担当。[3-1-5-1]や[3-2-5]というベースを持ちつつも人を柔軟に入れ替えながらボールを保持するので、人基準の守備を難しくさせた。相手の2トップが縦関係になりアーロン・ラムジーがアンカー消しを発動したら、ハリー・マグアイアがドライブをして幅を取るウインガーへ配球をしたり、ジョン・ストーンズから箱([4-4-2]守備のSB,CB,SH,CHを結んでできるスペース)にいるIHの選手へ縦パスを入れたりと、前進のアイディアを確立していく。

 ちょうど10分になろうかというところで、イングランドにチャンスが到来する。イングランドは[3-1-6]のような形でビルドアップ。ウェールズのダブルボランチに対して脇に1人ずつと間に1人という2枚のボランチの守備を困難にする絶妙なポジショニングを取っていた。ここにはCFのケインが絡んでいるが、この試合でも彼はフィニッシャー+ライン間でのチャンスメイクという現代的なCFとしての1人2役を高水準で完遂している。そして、このシュートまで持っていった1つ目のウォーカーと2つ目のライスのネガトラでの即時奪回の速さと強さが、このゲームを左右するヒントを与えてくれた。シュートまでの持っていき方は綺麗なものではなかったが、ウェールズのCBはマークする者がいない状況で、両ウイングのラッシュフォードとフォーデンが大外からダイアゴナルランを狙っている。筆者も事前に分析していたが、ウェールズのCBの背後対応と右SBネコ・ウィリアムスの外からのカーブランで内側を抜けられた際の対応が弱点ということが、イラン戦で表面化していた。そこを巧く突いたラッシュフォードだったが、GKウォードのビッグセーブでスコアは0-0のまま進むことに。……

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Profile

平野 将弘

1996年5月12日生まれ。UEFA Bライセンスを保持し、現在はJFL所属FC大阪のヘッドコーチを務める。15歳からイングランドでサッカー留学、18歳の時にFAライセンスとJFA C級取得。2019年にUniversity of South Walesのサッカーコーチング学部を主席で卒業している。元カーディフシティ

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