9年の時を経た再戦。「ベルギー黄金世代」の前に立ち塞がった20歳の大器グバルディオルは、日本にも牙をむく【クロアチア 0-0 ベルギー】
9年前、背後からさっそうと自分たちを追い越していった「ベルギー黄金世代」はクロアチアにとって因縁深い相手だ。時が経ち、世代交代がささやかれている両雄の激突で輝きを放ったのは、「クロアチア歴代最高のCB」という呼び声が高い20歳の大器グバルディオル。1つの時代が終わり、新たな時代が幕を開けたことを知らせる一戦だった。
ペリシッチの記憶に残る「ベルギー黄金世代」との邂逅
カタールW杯開幕前、クロアチア公共放送で『Knjaz kod Vatrenih』(クニャズがバトレニのところへ)というシリーズ番組が放映された。人気司会者のロベルト・クニャズがヨーロッパに散らばるバトレニ(“炎”を意味するクロアチア代表の愛称)の面々を訪ね、彼らの素顔を知るという内容で、第2回放送に登場したのが今年からロンドン在住のイバン・ペリシッチ。歴代出場試合数が歴代3位(119試合)の彼は、クロアチア代表で戦うことの重みをこう語る。
「クロアチア代表に入ってからもう11年が経つ。デビュー戦の心の内を表現することは本当に難しい。震えもあった。祖国のため、そして家族や友人のためにプレーするのだからね。ナイトゲームの場合、クラブだといつも仮眠しているのに、代表チームだとアドレナリンが湧いてしまって眠りにはつけず、ピッチに飛び出すことが今か今かと待ち切れない。国歌を聴き、そして僕は戦いに向かうんだ」
質問コーナーでペリシッチは「代表キャリア最高の試合」としてロシアW杯準決勝(イングランド戦)を挙げた一方、「代表キャリア最悪の試合」として「マクシミール・スタジアムでベルギーに1-2で敗れた試合だ」と答えた。
2013年10月12日。ブラジルW杯欧州予選グループAの首位決戦がクロアチアの首都ザグレブで行われた。協会主導の育成プログラムが花開き、若手が原動力となって快進撃を続けるベルギーは、この試合でクロアチアを蹴落とせば3大会ぶりのW杯出場が決まる。両国のFIFAランクはすでに試合の1カ月前に逆転していた(ベルギー10位→6位、クロアチア8位→10位)。クロアチアはベルギーに勝てば逆転首位に立つチャンスがあったものの、サッカー協会への不信感からサポーターの多くが応援をボイコット。マクシミール・スタジアムにはキャパシティの半分以下しか観客が集まらなかった。
両チームの勢いの差はピッチ上で顕著に表れた。前半15分にペリシッチの無警戒なバックパスをさらわれ、スルーパスを20歳のCFロメル・ルカクに通されると、そのままデヤン・ロブレンを振り切ってベルギーが先制。ルカ・モドリッチとマテオ・コバチッチで組むダブルボランチをやすやすとケビン・デ・ブルイネとエデン・アザールが攻略し、中盤の底ではアクセル・ウィツェルが支えた。前半38分にはカウンターで70m近くを疾走したルカクが決めてベルギーが2点目。後半出場のニコ・クラニチャールがGKティボ・クルトワの左側にボレーシュートを叩き込むも反撃はそれまで。筆者の私はこの試合を現地で撮影取材していたが、雨の中でうなだれるクロアチアの選手たちとは対照的にベルギーの若い選手たちは快くカメラのフレームに収まった。「黄金世代」と呼ばれた彼らは、その2年後にFIFAランク1位まで上り詰めていく。
VARでクラマリッチが得たPKは取り消し
あれから9年、カタールW杯のグループステージ第3戦で、両国代表はベスト16をかけて雌雄を決する。過去の対戦成績は3勝2分3敗でまったくのイーブン。さらに「現・FIFAランク2位vs前大会準優勝」という大会屈指の好カードだ。ところが、両チームの試合前の雰囲気は両極端だった。……
Profile
長束 恭行
1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。