なぜロブレンが先発?ダリッチ監督が決断した2つの“戦術的逆行”【モロッコ 0-0 クロアチア】
翌日更新! カタールW杯注目試合レビュー
互いにリスクを負いたくないW杯開幕戦。それが色濃く出たモロッコ対クロアチアはスコアレスドローに終わった。しかし、クロアチアを追い続ける長束恭行氏はダリッチ監督の2つの“戦術的逆行”を指摘。果たして、前大会のファイナリストの問題点とは何なのか?
カタールW杯開幕に合わせて現地入りしたクロアチア代表の記者会見で、33歳のデヤン・ロブレンはいつになく饒舌だった。
「経験あるベテランと若い獅子が組み合ったチームを気に入っている。自分自身とチームを信じていれば何だって可能だ。ロシアW杯決勝で敗れた後に私は『チャンピオンズリーグを制覇する』と語り、その1年後には実現させた。信じることだけが必要だ」
外国人記者から親友モハメド・サラーについて尋ねられ、「彼は『クロアチアの国旗を持ってキャンプを訪れる』と言っていた」と笑って答えたロブレン。しかし、続けて自国記者から「代表チームでファーストプランにない君は今大会が最後になるのか?」と質問されると表情が一変した。
「アンタがどれだけ疑っても僕は代表を続けるつもりだ。僕のことを除外すればするほど、さらなる燃料を僕に与えるだけだ」
もしかすると、この瞬間にクロアチア代表は“時計の針”を巻き戻したのかもしれない。
CBの世代交代は完了した…はずだった
ロブレンはフィジカルの強さと持ち前の闘争心でクロアチア代表の屋台骨を支えてきたが、ここ1年は世代交代の波に呑み込まれていた。爆発的なスピードを備えた20歳のヨシップ・グバルディオルが新たなCBの軸となり、今年には22歳のヨシップ・シュタロと24歳のマルティン・エルリッチの両CBがそろって台頭。ロブレン自身は足首のケガで出遅れ、ロシアのウクライナ侵攻後もゼニト・サンクトペテルブルクに留まったことで試合勘も鈍っていた。
今年9月の時点でズラトコ・ダリッチ監督は「ロブレンと(ドマゴイ・)ビダは功績があるので排除したくはないが、若い選手たちがやってきたことを彼らも認識している」と述べ、世代交代を完了したことを匂わせた。事実、その直後のUEFAネーションズリーグの天王山、デンマーク戦ではグバルディオルとシュタロの若手コンビで勝ち切り、クロアチア初の決勝ラウンド進出へと繋がった(ただし、最終戦のオーストリア戦ではロブレンが先発)。
カタールW杯を前にCBの世代交代を成功させたことは戦術面でも大きなプラスだった。「kikser」(ミスを犯す選手)と国内で冷やかされてきたロブレンやビダと違い、グバルディオル、シュタロ、エルリッチのいずれもが冷静沈着なビルドアップを得意とする。とりわけグバルディオルとシュタロは正確なグラウンダーパスに加えて持ち出しも武器とするため、中盤のトライアングルがボール回収のためにいちいち後方に下がる必要性がなくなった。これによりルカ・モドリッチの負担は軽減。EURO2020の時のような、攻撃から守備まですべてをキャプテンに依存する「戦術モドリッチ」は過去の話になっていた。
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Profile
長束 恭行
1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。