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「自分たちがダメだから選手が出ていくわけじゃない」街クラブでのコンセプト作りで見誤りがちなこと

2022.06.29

中野吉之伴の「育成・新スタンダード」第17回

ドイツで15年以上にわたり指導者として現場に立ち続け、帰国時には日本各地で講演会やクリニックを精力的に開催しその知見を還元。ドイツと日本、それぞれの育成現場に精通する中野吉之伴さんが、育成に関する様々なテーマについて提言する。

第17回は、実際に街クラブでのコンセプト作りに加わっている中野さんがどのような環境でそれを行っているのか、またその際に気を付けている考え方を伝える。

 「クラブ哲学やクラブコンセプトを持つことが重要だ」

 そういったことはよく聞かれるし、クラブ関係者や指導者に尋ねると「やっぱりクラブとして明確な哲学やコンセプトがあることは大事ですよね!」と話してくれる人が多い。

 でも、実際にどれくらい《明確に》《実際に》クラブ哲学やクラブコンセプトというものがまとめられて、実践されているのだろうか?

 クラブホームページをのぞいてみると「おぉ、素晴らしいことが書いてある!」と感動させられるほど丁寧に整理されているのだが、実際に練習や試合を見学すると「あれ?僕は何か間違ったページを見ていたのかな?」と小首をかしげ続けなければならないほど、まったく明記されてある哲学やコンセプトとはほど遠い指導がされてたり。そんなことに結構な頻度で遭遇する。

 「理想と現実は違う」なんて言葉は誰でも口にできるけど、だからって理想を投げ出して何をやってもいいなんてわけはない。何のために哲学やコンセプトをまとめる必要があるのか。どうやって浸透させていくことが望ましいのか。

 そこへの挑戦なくして、一貫性のある指導を継続的に行うのは困難でしかない。

 哲学やコンセプトだからとすべてを小難しく考えてしまったり、自分たちのキャパシティを考慮せずにすべてを盛り込んでしまったらやっぱりうまくはいかない。

 自分たちの立ち位置を理解して、できるキャパシティを把握して、自分達が大事にすべき指針を明確にして行くことが望ましい。

 今回は、僕がフライブルクにある小さな街クラブ、SVホッホドルフで取り組んでいるクラブ哲学やコンセプト作りについて紹介したいと思う。

優勝の先に待っていた歓喜と…

 育成部長のニルスから「相談があるんだ」と声をかけられたのは3月頃だった。

 「SVホッホドルフの指針となるようなものを作ろうと思っているんだ。今はそれぞれの指導者任せというか、各年代でまったく別のサッカーをしてしまっている。それに対して、いくら育成部長だからといって自分の意見を押し付けることはできない。だから、《自分たちが取り組む育成のあり方》というものを作成できたら、説得力が増すと思うんだ」

 この熱いオファーに、僕はすぐ「手伝うよ」と返答。さっそくプロジェクトチームに参加してくれる人を募集したら、4人が名乗り上げてくれた。みんなボランティアコーチのお父さんコーチ2人とお母さんコーチが1人、それと僕とニルスがチームだ。……

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Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。

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