先日、ブライトンが元イングランド代表FWダニー・ウェルベック(29歳)と1年契約を結んだのだが、果たしていつになったら私たちは彼の才能を拝めるのだろうか?
得点力は低いが…
ウェルベックのキャリアを振り返ると、どうしても腑に落ちないことがある。というのも、彼は前線の選手だというのに、リーグ戦で一度もシーズン2桁ゴールを記録したことがないのである。
それどころか、2010年にローン先のサンダーランドでレギュラーに定着して以降、プレミアリーグ過去10年間で5得点以上したのは4シーズンだけ。そのうち3回はプロキャリアをスタートさせたマンチェスター・ユナイテッド時代である。
プレミアリーグ通算224試合で44ゴール。これはFWとしては実に寂しい数字だ。決定機が多いユナイテッドやアーセナルのような一流クラブに在籍してきたことを考えると、決定力は低いと言わざるを得ない。
それなのに、イングランド代表では42試合16ゴールの実績を持ち、イングランドが4強に入った2018年ワールドカップでもメンバーにも選ばれていた(出場は12分間だけだったが……)。
そして、2009-10シーズンに2部のプレストンで武者修行して以降、常にプレミアリーグのクラブに所属できている。今回もワトフォードで降格しながら、同クラブとの契約を解除して、晴れてプレミアの舞台に帰ってきた。
典型的なストライカーではなく、サイドもこなす万能系なので得点数が伸び悩むのかもしれないが、それでもどうして彼はこんなに人気があるのだろうか?
ケガにも泣かされたキャリア
2014年にユナイテッドを退団した際もそうだった。ノースロンドンの両雄が争奪戦を繰り広げたという。
先日、アーセン・ベンゲルが『The Athletic』のインタビューで獲得の経緯を明かしたが、アーセナルの元監督はローマ法王主催のチャリティマッチを見に行く際、トッテナムがウェルベックを獲得する寸前であることを知ったという。そこでフランス人監督は間に割って入り、「ローマ法王と一緒に写真を撮るための列に並びながら携帯電話で代理人と交渉した」という。
それほどまでして獲得したのだが、当時ユナイテッドを率いていたルイ・ファン・ハールが「(ラダメル)ファルカオは練習初日に1本のチャンスを決めてみせた。だがウェルベックには同じようなゴールの実績がない」と放出理由を明かしたように、彼がアーセナルでゴールを量産することはなかった。
その原因の1つはケガである。2018年にはイングランド代表に選出されながら、11月の試合で足首を骨折し、それがアーセナルでのラストゲームとなった。ワトフォードに加入してからも、昨年10月にハムストリングを痛めて4カ月ほど離脱したのだ。
「ケガさえなければ……」と考える人もいるかもしれないが、本来は「決定力が低いうえにケガが多い」と考えるべきだ。それでも、こうしてブライトンに誘われたのには理由があるはずだ。
「人間性が一流」
穴埋めだったのかもしれない。ブライトンは移籍市場で187cmのウルグアイ人FWダルウィン・ヌニェスを狙っていたが、同選手はアルメリアからベンフィカに移籍してしまった。そういったこともあり、フリーで獲得できるウェルベックを獲ったのだ。
グレアム・ポッター監督も「他にないクオリティだ。体が強く、背が高く、裏に走れる。うちに所属する他のFWとは違う能力だ」と説明した。その後でこう付け加えたのだ。
「人間性が一流なんだ。彼はプレミアリーグで実力を証明したがっているし、クラブの成長に加担したがっている」
人間性が評価されたのなら、アーセナルファンも心当たりがあるはずだ。彼は昨年2月、契約最終年に大ケガをして自身の今後が不透明な時期に「精神的にきつい。でもケガをした選手に限らず、誰の人生だって凸凹道なんだ」と、決して自分だけが不幸なわけではないと語っていたのだ。
そういえば、過去にこんな記事を読んだことがある。「ウェルベックについて意見が割れるのは純粋にプレー面だけだ。彼は思慮深く、地に足がついており、知的。一言でいえば、いい奴なのだ」
だからだろう。今季リバプールから加入したアダム・ララーナも「彼と何度も話したよ。彼にうまくチームを売り込むことができた。彼のような選手が加入してくれるのは幸運なことさ」と、代表チーム時代の同僚を勧誘していたことを『Sky Sports』に明かしたのだ。ウェルベック自身も「“代理人”ララーナのおかげ」と加入の決意についてクラブHPに語った。
そんなやり取りを聞いていると、今度こそダニー・ウェルベックの覚醒に期待したくなる。“ナイスガイ”が真の実力を発揮できることを、筆者も陰ながら応援したい。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。