ファン・ウェルメスケルケン際(26)がオランダリーグでデビューしてから、早くも7季目を迎えている。オランダ1部リーグで21試合、2部リーグで129試合、カップ戦で11試合、入れ替えプレーオフで6試合、合わせて167試合の貴重な経験を積み成長してきた。
乱闘時の振る舞いに成長を感じる
2部のカンブ―ルからズウォレに移籍した昨季は18試合に出場し、先発は13試合だった。今季のシーズン前に際は監督とテクニカルディレクターから「君のことを右SBのファーストオプションとして考えている」と告げられた。
その期待に応え、際は開幕から2試合、サム・ケルステン、ブラム・ファン・ポーレン主将、ケネット・パールとともにズウォレの最終ラインを固めている。
第2節、9月19日のAZ戦(1-1)で、「ああ、際も中堅になったんだなあ」と感じ入るシーンがいくつかあった。
この日の試合は、カルバン・ステングスが17分に退場処分を受けたことで、AZの選手がヒートアップ。それが徐々にズウォレの選手に伝播し、70分過ぎにはAZのCFマイロン・ボアドゥとズウォレのMFムスタファ・サイマクのにらみ合いから両チームが大乱闘になった。
その時、見事な体のコーディネーションで敵味方の間に割って入り、乱闘を鎮めようとしていたのが際だった。
アディショナルタイムにはAZのCBティモ・レッシェルトがスルスルとドリブルでペナルティーエリアの中に侵入し、ズウォレの選手2人が一度にスライディングタックルを仕掛けてかわされる大ピンチ。そこを際が冷静に対応してしっかり止め、さらにMFデニー・デ・ウィットのシュートもブロックして封じた。
実戦の場数を踏んで得た経験を、その場で必要とされる振る舞い、そしてプレーの実行に昇華しているのが現在の際だ。
デュエルを合気道で制す
後半の半ばあたり、際がデ・ウィットと並走しながら腕を絡ませ、最後は彼の動きをロックしてバックパスに逃したシーンがあった。デ・ウィットはフィジカルが強く、頻繁にフリーランニングを繰り返すMFだ。そんなデ・ウィットが、際が腕を絡ませ体を寄せたことで力が入らなくなったのである。
何気ないシーンだったが、際に「デ・ウィットの動きをどうやって封じたのか教えて欲しい」と依頼したら、「ちょっと体を借りてもいいですか」と言って、お互いの腕を絡ませながら、少し重心を上げてきた。
「合気道の考えなんですが、脇の下に手を入れて押し出すと人間の体は浮くんですよ。デ・ウィットは体の強い選手で、止まっている時に押し出そうとしても自分がジリ貧になってしまうので、腕を入れて持ち上げて押すということをしました。『押す』と言っても、自然な動きの中でのことなのでファウルにならないんですよ。それで押し出してスローインをもらったりすることは結構やっています」
父親が合気道をやっていたのだという。
「僕自身は父から合気道を教わってはいませんが、人間の体がどうなっているのか、自分で調べました。強い相手にただ当たるだけでは何もできませんしね」
体の強い相手に対するデュエルを合気道で制す――。ポゼッション時の選択肢の多さや思い切った攻撃参加に加え、際に新たな武器が備わった。
Photo: Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。