パンデミックによる危機に敢然と立ち向かうCBFとホジェリオ会長
世界サッカーを揺るがす新型コロナウイルスにより、CBF(ブラジルサッカー連盟)も各国と同じく感染予防、金銭面、スケジュールなど、様々な問題に対応すべく奔走している。
歴代会長とは一線を画す
陣頭指揮を執るホジェリオ・カボクロは、CBF会長選挙で当選し、2019年4月に就任した人物だ。元々、企業の経営や運営管理と弁護士のキャリアを持ち、サンパウロFCや、サンパウロサッカー連盟の仕事をきっかけに、サッカーとの関わりを築いてきた。
46歳での会長就任以降、彼が会議やイベントで世界各国を飛び回ったり、FIFAのインファンティーニ会長や南米サッカー連盟のドミンゲス会長と対等に話を進めたりする様子に、ブラジルのサッカージャーナリストたちは「当たり前の光景なのに、久しぶりにホッとするよね」と苦笑いをしたものだ。
何しろCBFの歴代会長は金銭的な不正や疑惑にまみれており、ヒカルド・テイシェイラは雲隠れ、ジョゼ・マリア・マリンがスイスで逮捕され、マルコ・ポーロ・デル・ネロは国外で逮捕されるのを避けるために会長としての活動を国内に限るなど、あり得ない状況に陥っていた。また、前会長のコロネウ・ヌネスは、サッカー界において国内外で存在感が薄い人物だった。
現在のホジェリオ会長は、パンデミックによって3月16日以降続いたサッカー中断期間中も、再開している現在も、その運営管理能力とバランス感覚をフル稼働させ、様々な問題解決に取り組んでいる。
選手、州連盟、審判を援助
まず、CBFは今季のブラジル全国選手権3部、4部に属するクラブと、女子全国選手権A1、A2に属するクラブ、合計140クラブに対し、所属する全選手の給料2カ月分を援助。このために1900万レアル(現在のレートで約4億7500万円)の予算を割き、4月7日からクラブへの支給を始めた。
同時に、全国27の州サッカー連盟に対し、州ごとに12万レアル(約300万円)を援助することも決定した。
ホジェリオ会長は「前例のない世界危機なのだから、慎重かつ責任ある行動を取らなくてはならない。その中で、即時の直接的な支援をしながら、できるだけ早いブラジルサッカーの正常化のために引き続き努力していく」とコメントしていた。
また、試合がない間は審判が無給となるため、4月1日の時点で、全国レベルの審判479人全員に、そのカテゴリーごとに支払われるはずの最高額から計算された試合給を前倒しで支払うことも決めた。
それに加え、全国審判委員会を介して、この休止期間、1日おきの審判理論のオンライン講座や、心理面をケアするためのオンライン受診、フィジカルコンディション維持のためのガイドライン提供などでサポートした。
オンライン講座に関しては、指導者の育成と監督ライセンス取得、またサッカー運営管理のスペシャリスト育成のためのCBFアカデミーの部門でも、無料で継続的に実施された。
打撃を受けた家庭をサポート
CBFとブラジル代表選手たちが力を合わせて「助け合いセレソンキャンペーン」も行った。これは、新型コロナによって経済的に打撃を受けた家庭を援助するためのものだ。
第1段階では、近年のブラジル代表の選手たちと、チッチ監督をはじめとする代表チームスタッフ、そして会長らが個人として寄付。それが合計250万レアル(約6250万円)になった。
そこにCBFが組織として同額を上乗せし、合計500万レアル(約1億2500万円)を寄付。これによって、3200の家庭に2カ月分の食糧を配布することができた。
さらに第2段階として、ネイマール、アリソン、チアゴ・シウバといった代表のスター選手たちによるビデオメッセージを作成し、代表以外の選手たちやサポーターにも寄付を募った。
「安全な形で再開しよう」
サッカーの再開に際しては、病院とパートナーシップを組み、試合ごとの3日前に、登録された全選手の新型コロナ感染テストを義務付け、その費用をCBFが支払っている。
試合は全国選手権の男子1〜4部とU−20、女子A1、A2、その他コパ・ド・ブラジルやコパ・ノルデスチをカバーする。
ホジェリオ会長は「安全な形でサッカーを再開しよう。ガイドラインによって保護され、信頼できる環境を提供することが、サッカーの主役たちに対する我々の使命だ」と語っている。
このテストによる感染発覚で選手の数が足りなくなり、延期を余儀なくされる試合が出てきたため、試合に登録されていない選手も含めた全員にテストを実施し、検査結果次第で登録選手を入れ替えられるようガイドラインを変更した。
すでに2021年の年間カレンダーも発表されたが、今年のスケジュールの全体的な遅れによって、来年も選手、クラブ、代表のすべてにとって厳しい日程となり、各方面から議論が噴出している。
CBFにとっても、ホジェリオ会長にとっても、あらゆる案件を走りながら決定・実践し、修正する日々が続く。しかし「私はスポーツディレクターである前に、生涯弁護士。ルールを尊重する人間だ」と語る会長は、各分野の専門家や機関と連携を取りながら、未知の事態に新旧のルールを組み合わせ、真摯な姿勢で立ち向かっている。
Photo: Kiyomi Fujiwara, CBF, Lucas Figueiredo/CBF, Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。