この夏のオランダは、エールディビジのチーム同士でプレシーズンマッチを組むことが多い。8月15日にはPSV対フィテッセという好カードがあった。PSVはロジャー・シュミット、フィテッセはトーマス・レッシュと、ザルツブルクで監督、コーチの間柄だった2人のドイツ人が指揮を振るったゲームだった。
独自の色を見せたレッシュ監督
オランダ人の脳裏には、2014年にアムステルダムで、ザルツブルクがアヤックスを3-0で葬った試合が色濃く残っている。そのため、昨季不振にあえいだPSVが新たな監督探しに乗り出すと、真っ先にシュミットの名前が上がった。レッシュはオランダではまだ無名の指導者だが、ここまでのプレシーズンマッチで見せたフィテッセの攻撃的サッカーは高く評価されている。
シュミット監督は今季のPSVのメインフォーメーションとなる[4-2-2-2]をそのままフィテッセ戦でも用いた。一方、レッシュ監督は中盤をダイヤモンド型にした[4-4-2]を[3-5-2]に変えてPSVの2トップを封じようとした。
レッシュ監督はオールラウンダーのMFバズールの両脇に本職のCBを2人配置して3バックを作った。フィード精度の高さを買われてCBを試されたバズールは、積極的にミドルレンジのパスにチャレンジしていた。
PSVからプレッシャーを受ける中、その成功率は高いものとは言えなかったが、レッシュ監督は「バズールはチームの中で一番ビルドアップのうまい選手で、PSV戦ではロストも目立ったが、通常ならロストはしない。このシステムはあくまでオプションの1つ。まだ開幕まで4週間もある」とトライに割り切っていた。
新たな資質を引き出したシュミット監督
先発メンバーを70分間引っ張ったフィテッセに対し、PSVは30分に負傷明けのMF マーレンを予定通りベンチに下げ、ハーフタイムに5人の選手を入れ替えるなど、積極的に選手をシャッフルしていった。
その中でポイントは2つ。人材難の左SBにコンバートされた攻撃的MFマウロ・ジュニオールが前回よりいいプレーをし、レギュラー候補1番手に目されつつあること。そして、イハターレンがより戦術的なタスクを負ったことだ。
PSVの攻撃時には右サイドから中央にかけてフリーロールを与えられているイハターレンは、相手ボール時にはセントラルMFの位置まで下がってトレス・ボランチのように振る舞っていた。
1対1の仕掛けに自信を持つ選手だが、フィテッセ戦では味方に対して楽にボールを持ってもらおうという意識が向上していた。昨季のPSVはDFと攻撃陣がうまく繋がらなかったが、今季はその仲立ち役をイハターレンがこなしつつ、自らもゴールを狙う形を作っていきそうだ。
試合は1-1で終わった。ゲーゲンプレッシングを標榜する両チームの指揮官だが、合宿疲れが残る上、猛暑に襲われたオランダでのプレシーズンマッチで強度の高いサッカーをする必要はなかった。
しかしながら、フィテッセのバズール、PSVのマウロ・ジュニオール(ヘラクレスからレンタルバック)、イハターレンといった選手たちが昨季とは違った資質を披露するのを見て、シュミットとレッシュは選手自身が気づいてない能力を引き出す術に長けていることを示してくれた。
オランダリーグを率いるドイツ人監督は、2018年からヘラクレスを率いるフランク・ボルムートも含め3人になった。2015-16シーズンは9人だったオランダリーグのドイツ人選手は今季、28人に増えた。この傾向をオランダ人は「オランダサッカーにおけるニュー・ノーマル」と呼び始めている。
Photo: Getty Images
Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。