8月18日、ベルギーのジュピラー・プロ・リーグのベールスホットVAは、北海道コンサドーレ札幌所属の日本代表FW鈴木武蔵を獲得した。クラブ史上初の日本人選手として鈴木武蔵を迎え入れたこのクラブに触れておきたい。
2度の破産消滅を経験
ベールスホットはベルギー第二の都市アントウェルペンの南部にあるキール地区をホームとしている。ホームスタジアムは1920年アントワープ五輪のメイン会場となった1万2771人収容のオリンピシュ・スタディオンを使用している。
紫のユニフォームと熊のエンブレムをトレードマークとするベールスホットは、過去に2度、クラブの破産消滅を経験している。最初のクラブは1899年に設立され、戦前には7度のリーグ優勝を誇った古豪だったが、100周年となる1999年に財政難により破産。
1999年にアントワープ北部を本拠地としていたヘルミナル・エケレンがキールに移転し「ヘルミナル・ベールスホット」と改名(2011年にベールスホットACに再改名)。2000年代は国内屈指の育成組織を擁し、トーマス・フェルメーレンやヤン・フェルトンゲン、トビー・アルデルバイレルト、ムサ・デンベレ、ラジャ・ナインゴランらを輩出。過去にはケニア代表MFビクター・ワニャマもプレーした。ベルギーでは中位が定位置だったが、2013年に再び財政難に陥り、破産消滅した。
2度目の消滅となった後、2013年にキール近郊にあるKFCOウィルライクが移転し「KFCOベールスホット・ウィルライク」と改名。5部から再スタートになったが、ホーム開幕戦に異例の7000人の観客を集めた。
熱烈なサポーターに支えられたチームは、2017-18シーズンに2部に復帰。2018年2月には、プレミアリーグのシェフィールド・ユナイテッドのオーナーで、サウジアラビアの王子でもあるアブドゥラ・ビン・ムサード・ビン・アブドゥル・サウード氏がクラブの株式の50%を買収し、2019年7月には現在の「KベールスホットVA」に改名した。
2部昇格後は2年連続で優勝決定戦に敗れていたものの、19-20シーズンではOHルーベンを破り、3度目の正直で2部優勝を果たした。クラブの運営形態は違えど、8シーズンぶりにベールスホットが1部に復帰した。
国内屈指の熱狂を誇るダービー
クラブの運営形態は異なっても、ベールスホットは同じアントウェルペンで北東部のボサイル地区をホームとするロイヤル・アントワープと100年以上にわたって激しいライバル関係を繰り広げている。
サポーター同士の熱狂は直接対決で発揮されるだけではなく、2017年にはアントウェルペン市内ですれ違ったサポーター同士が警察沙汰になる乱闘騒ぎを起こしている。17-18シーズンのプレーオフ2ではベールスホットとロイヤル・アントワープの直接対決が実現し、厳戒態勢下で試合が開催された。
ベルギー最古のクラブで一度も破産していないロイヤル・アントワープに対し、ベールスホットは2度の破産を経験しながらも他クラブの移転により復活しており、両クラブの歴史は対称的だ。札幌でともにプレーし、ロイヤル・アントワープに所属する三好康児との日本人対決にも期待がかかる。
クラブレジェンドのロサダが指揮
8シーズンぶりに1部を戦うベールスホットは、第1節でオーステンデに2-1、第2節はズルテ・ワレヘムに3-1と勝利し、開幕2連勝を飾っている。
開幕から好調のチームは、38歳のアルゼンチン人エルナン・ロサダ監督に率いられている。今シーズンのジュピラー・プロ・リーグ全18チームの中では、先日引退を表明し、アンデルレヒトの監督に就任したばかりのバンサン・コンパニに次いで2番目に若い。
現役時代はテクニカルなドリブルとパスを得意とする攻撃的MFとして活躍。選手としてベールスホットには2006年から2年間、2011年から2年間、2015年から3年間と合計7年間所属し、欧州での初のキャリア、チームキャプテン、クラブの破産消滅、下部リーグからの再建と、近年の歴史の生き字引となっている。
現役引退後はアシスタントコーチを務めていたが、昨年10月に当時のスタイン・フレーフェン監督の解任によって内部昇格すると、チームの復調に成功。19-20シーズンの2部優勝へと導いた。
チームのシステムは主に[3-4-1-2]を採用している。補強が少ないため、開幕からの2試合は昨シーズンの主力選手を中心にチームを編成した。
攻撃陣は好調で、トップ下のオーストリア人MFラファエル・ホルツハウザーと、カメルーン人FWマリウス・ヌビシが2得点、モロッコ系オランダ人のFWタリク・ティスダリが1得点と、今季の5得点すべてを前線の3人で奪っている。
好調の攻撃陣に加え、スイスのルツェルンからFWブレッシング・エレケを獲得しており、前線のポジション争いは激化が予想される。しかし、ロサダ監督は公式HPで鈴木武蔵を「スピードがあり賢さも備えるストライカーだ。日本以外でのプレーは初めてだが、私たちのスタイルにすぐにフィットすると確信している」と期待を寄せている。
鈴木武蔵の活躍が「古豪復活」に燃えるベールスホットの原動力になることを期待したい。
Photo: Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。