コロナ禍の影響で試合後のインタビューが必要最低限に留められるようになり、カメラの前でチームメイトが仲良く並んでインタビューを受ける光景も懐かしくなった。
以前まで、プレミアリーグでは試合後に数名の選手が一緒にインタビューを受けるのが当たり前だった。そして、その場でチームメイトからチームメイトへと「マン・オブ・ザ・マッチ(MOM)」の記念品が手渡される。そんなやり取りが恒例だった。
例えば2018-19シーズン、リバプールのFWモハメド・サラーはハットトリックを決めたボーンマス戦でMOMに選ばれ、同僚のMFジェイムズ・ミルナーから記念トロフィーを渡された。しかしサラーはこれを受け取らず、反対に「おめでとう」と言ってプレミアリーグ500試合出場を達成したミルナーに記念品を返したのだ。そんな微笑ましいやり取りが話題になったが、その時の記念品は直方体の黄色いトロフィーだった。
19-20シーズンは、10月のマンチェスター・ユナイテッド戦でニューカッスルのロングスタッフ兄弟がそろってインタビューを受け、兄ショーンから決勝ゴールを決めた弟マシューへ記念トロフィーが渡された。トロフィーの形状は今季から円柱に変わったが、やはり黄色い無機質な物体に変わりはない。
国際化の中、記念品が変更
プレミアリーグのファンならご存知のはずだが、以前は違うものがMOMの選手に渡されていた。2016年に現在の“黄色い物体”に変わる前は、もう少し派手な盾が贈られていたのだ。プレミアリーグは16-17シーズンに大幅なリブランディングを行い、その時にロゴや記念トロフィーなどを一新。「モダンで柔軟なもの」に簡素化され、現在の無機質な物体になったのだ。時代の流れというやつだ。
だが、時代の流れというならば、MOMの記念品に大きな変化があったのは2012年のことである。覚えている方も多いと思うが、それまでプレミアリーグのMOMにはトロフィーではなく、当たり前のようにシャンパンが授与されていたのだ。
だが当然、シャンパンには問題があった。飛躍的に国際色が豊かになったプレミアリーグでは、選手によって国籍も違えば、育ってきた環境や文化も違う。もちろん宗教も違う。2012年5月、当時マンチェスター・シティに所属していたヤヤ・トゥーレは、同僚のジョリオン・レスコットからMOMのシャンパンを渡されるも「僕はイスラム教徒なのでアルコールは飲まない。君がもらってくれ」と返したのだ。
そのため、プレミアリーグはイスラム教徒に別の記念品を用意することを検討。結局、全選手に小さなトロフィーを授与することに落ち着いた。FAカップでも、2019年から優勝チームの“シャンパンファイト”用にはノンアルコールのシャンパンが用意されようになったという。
未成年へのシャンパン授与も問題に
もちろん宗教上の問題だけではない。英国では18歳未満の飲酒は禁じられているが、未成年の選手がMOMに選ばれることがある。例えば2009年4月、彗星のごとく現れた17歳の新星、フェデリコ・マケダが途中出場から終了間際に決勝ゴールを決めてMOMに選ばれたことがある。
英紙『The Guardian』は当時を振り返り、マケダは「試合後のインタビューで喜びながらシャンパンを受け取ると、そのまま踊るようにして控え室に消えていき、二度と姿を現さなかった……」と、その後の同選手のキャリアを揶揄しながら説明した。
スコットランドのハーツに所属するハリー・コクラン(現在19歳)は、2017年に16歳でデビューを果たすと、セルティック戦でゴールを決めて勝利に貢献。MOMに選出されたのだが、まだ16歳のためシャンパンを受け取ることができず、代わりにチームメイトがもらうことになった。
その後、コクランにはスコットランドの国民的ソフトドリンクである「Irn-Bru(アイアンブルー)」が贈られたそうだ。
どんな記念品が「マン・オブ・ザ・マッチ」に贈られるにしろ、普通に手渡せる日々が戻ってくることを願いたい。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。