ブライテンライターが指導者目線で解説。「プレ・アシスト」を読み解く(後編)
前回は、「プレ・アシスト」がどのような数値か、そして昨季のブンデスリーガで突出した数字を出した選手たちを紹介した。今回は、ここからブンデスリーガのその他のクラブの特徴や、ブンデスリーガのクラブを指揮したアンドレ・ブライテンライターの解説を見ていこう。
数値が導き出す各クラブの特徴
ボールを支配し、リーグで最も多くの流れの中からのチャンスを作ったバイエルンに対し、カウンターから最も多くのゴールを決めたドルトムントは主に右サイドからのチャンスメイクだった。敵陣右サイドは満遍なくプレ・アシストが多く、ジェイドン・サンチョとアシュラフ・ハキミのスピードが存分に生かされていたことが分かる。
同時に、アタッキングサードのゴール前30mのエリアでは、中央と左サイドが最も多く使われており、ボール保持から攻撃に移る際には、ラファエル・ゲレーロやユリアン・ブラントらが左サイドから狭いスペースを崩すことが多かったことが見て取れる。
一方で、興味深い数値を叩き出したのは、最下位で降格したパーダーボルンだ。ブンデスリーガ18チーム中で唯一、自陣からのプレ・アシストが最も多かった。攻撃するサイドは左サイドに偏っており、カウンターから左サイドを経由して一気にチャンスを作る形がしっかりデザインされていたことが見て取れる。
パーダーボルンのプレ・アシストを経由した流れの中からのチャンス数は、リーグ12位の「200」。チーム総得点は37得点ながら、プレ・アシストがついた流れの中からの得点は「19」とリーグ15位タイ、流れの中からの得点率は51.4%でリーグ9位。残留したチームと降格したチームの差は、セットプレーの精度だったことが明確になった。
実際、昨季健闘した8位のフライブルク、11位のウニオン・ベルリンの数値がそれを裏付けている。フライブルクのチーム総得点は「48」。そのうちプレ・アシストがついたのは13得点のみ。残りの35得点はセットプレーからのものであり、流れの中からの得点率はわずか27.1%にすぎない。フライブルクはプレ・アシストからのチャンスは「205」とリーグ11位の数字ながら、最後のシュートが決まらなかったことも見て取れる。
ウニオン・ベルリンはさらに極端だ。プレ・アシストからのチャンス数はリーグ17位のわずか「163」。チーム総得点は「41」ながら、プレ・アシストからの得点はわずか「9」と圧倒的に低い。「得点はセットプレーから」と割り切り、愚直に勝ち点を重ね続けた成果が、11位という好順位に繋がった。
“理想的な”プレ・アシストとは?
シャルケやハノーファーで指揮を執ったアンドレ・ブライテンライターは、監督の目線からプレ・アシストについて説明する。プレ・アシストが絡む流れの中の攻撃では、デザインされた攻撃の型のオートマティズムを機能させるようにし、相手守備陣よりも一瞬でも早く先手を取ることが基本になるという。
もちろん、「単純に型にはめるのではなく、アタッキングサードでは選手たちの創造力を生かす余白を残しておくことが求められる。とりわけ、自チームにクオリティの高い選手がいる場合は、彼らが直感的に状況を正確に把握し、正しい判断を行ってくれなければならない」と、選手のレベルに応じた介入のさじ加減が必要であることを強調する。
また、プレ・アシストは基本的には、相手DFラインの背後にボールを送ることが望ましいという。アシスト役となる選手がサイドから相手DFの背後を取りながらボールを受け、折り返しのボールを送ることで、ペナルティエリア内の選手は得点を決めやすくなるからだ。
相手が早めにリトリートしてゴール前を固めてくる場合は、「ダイアゴナルな浮き球のパスを両ウイングに配給する。マークしているDFの背後を取ったタイミングでボールを受け、折り返せればゴールになる」
その一方で、相手がハイラインを敷いてプレッシャーをかけてくるようなら「スピードある選手を走らせるロングパスも有効になる」。いずれの場合にせよ、肝心なのは「相手の最終ラインの背後を突くという目的を達成することだ」
最も多いプレ・アシストは?
このブライテンライターの解説は、次のデータからも裏付けられる。ブンデスリーガでプレ・アシストが最も多かったゾーンは、中央のレーンで、ゴール前20~30mのエリアでのもの。総数の20%を超え、中央からサイドに展開するものが最も多かった。
プレ・アシストの半数を超える55.7%が30m以上のロングボールだったことを考えると、サイドの選手が優位な状態を見逃さずに逆サイドに展開するパスが、プレ・アシストとして機能しやすいことが予測される。
相手DFを崩す際に、誰もがイメージするような鮮やかなスルーパスは、プレ・アシスト全体のわずか1.4%にすぎない。ここから読み取れるのは、ブンデスリーガの場合、最終的に得点に繋がる攻撃はセットプレー、カウンター、そしてサイドへ展開するロングパスからの折返しの3パターンになる、ということだ。
身も蓋もない結果だが、これらの数字を読み解くことで、自分たちにとって実現可能な、得点の確率が高い攻撃を見付け出すことができる。ここから逆算して攻撃をデザインすることで、自分たちのプレーモデル構築に役立てることができるのだ。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。