ユベントスは8月8日、アンドレア・ピルロ監督の就任を発表した。アウェイゴールの差でリヨンの後塵を拝し、UEFAチャンピオンズリーグのラウンド16敗退が決まった翌日、クラブはU-23の監督就任が決まったばかりの人物にトップチームの指揮を委ねることにした。
ピルロ就任への賛否両論
セリエAの監督経験はおろか、指導者としての経験もない人物の抜擢には、イタリアサッカー関係者やファンの間でも賛否両論がある。
「ファンに害をもたらす闇の中のギャンブル。監督の仕事や功績に対する冒涜だ」と非難するジャーナリストもいれば、ファビオ・カペッロ氏のように「サッカーに関しては前進的な考えを持つ人物」と指導者としての資質を評価する声も出ている。
もっとも、コーチングの分業化が進んだ現代のサッカーシーンにおいては、監督は全体をコーディネートして最終決断を下す「統括管理者」であれば良い、という見方も存在する。よって注目されているのが、果たしてどんなスタッフを迎えるのか、ということだ。
そんな中、ユベントスがあるベテランフィジカルコーチと契約することが有力になったというニュースが報じられた。今季サンプドリアでフィジカルコーチを務めていたパオロ・ベルテッリその人だ。
名将を支えたフィジカルコーチ
輝かしい実績の持ち主である。フィレンツェ出身で、クラウディオ・ラニエリ監督がフィオレンティーナで指揮を執っていた頃に加わり、以降はずっとサッカーに携わった。2005年から所属したローマでは選手のコンディションを高次元に保ち、ルチャーノ・スパレッティ監督の戦術の実現を助けた。
2011年からはアントニオ・コンテ監督の下でユベントスの3連覇に貢献し、そのコンテの要望を受けた形でイタリア代表、そしてチェルシーへと付いて行った。
そして今シーズンはイタリアに戻り、再びラニエリ監督の下で働くことになる。とりわけその才覚が発揮されたのが、新型コロナウイルス感染症による中断後だ。
ロックダウンで練習ができない間も各選手の状態を適切に把握し、選手やスタッフの中からも大勢の感染者が出る状態にありながら、各選手の適切なコンディションキープに成功した。
ラニエリ監督は過密日程の中にあって積極的なターンオーバー制で選手を回したが、それが可能になったのもベルテッリの手腕あってのことだ。なお、一般紙『レプッブリカ』によれば、ベルテッリはサンプドリアに対して退団と契約解除の意思を通達。サンプドリアはベルテッリの代わりのコーチは招聘せず、残留したフィジカルコーチ2名を軸とする体制で乗り切っていく方針だという。
ピルロはイタリアサッカー連盟(FIGC)が開催するUEFA PROの指導者コース受講を完了しており、指導資格そのものは有しているとのこと。スタッフとともに自らのアイディアをどう選手たちに伝えてチームを作り上げていくのか注目である。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。