いつになったらファンはスタジアムに戻れるのか。その難題に挑むドイツの企業があるという。
低コストで観客のチェックが可能に
欧州の大半のリーグは無観客でリーグ戦を再開し、今季いっぱいは観客を入れずに試合を行う。コロナ禍の状況次第だが、来シーズンになれば徐々に観客を入れ始めるリーグもあるというが、そのためにはファンの検温やソーシャルディスタンスなど、超えなければいけないハードルがいくつもある。
そんな中で、ベルリンに拠点を置く『G2K』という企業が注目を集めているそうだ。
スポーツ情報サイト『The Athletic』によると、同社は検温とマスク着用の有無を自動でチェックするテクノロジーを開発しているという。既にドルトムントやヘルタ・ベルリンでテストが行われており、9月開幕が濃厚とされる来季のブンデスリーガで徐々に観客を入れるべく準備を進めているそうだ。
2週間前に試験的に導入したドルトムントは、来季は8万1000人収容の本拠地ジグナル・イドゥナ・パルクに30%の観客を入れることを目指している。というのも、ドルトムントは無観客試合の場合、チケット代やグッズ販売などを含めて1試合で400万ユーロ(4億8000万円)もの収入減を強いられるからだ。
『G2K』社のテクノロジーでは熱を感知するサーマルカメラの設置が必要になるものの、その他は現在スタジアムで使用している監視カメラを利用するため、低コストで済む。同社いわく、設備工事には2週間しかかからず、1試合あたりのコストも10万ユーロ(約1200万円)程度だという。
“パスポート”導入も検討
同テクノロジーは6月27日に行われたホッフェンハイム戦で試験的に運用され、スタッフやメディア関係者を対象に自動検温を行ったところ「98.3%」という高精度を叩き出した。このテクノロジーは顔認証システムを使っておらず、単純にマスク着用のチェックと検温を行う。
今後、徐々に観客を入れる際に問題になるのは“密”である。スタジアムの入り口で一人ひとりの検温を行えば、長い行列ができて混雑を招き、ソーシャルディスタンドが守られない。だからこそ、自動で検温してくれるテクノロジーに注目が集まっている。
その他にも同テクノロジーは、スタジアム内でのファン同士の接近も検知し、警備員に報告したり、大型スクリーンで注意喚起したりできるという。イングランドのリバプールもこのテクノロジーの導入を検討しているそうだ。
一方で英紙『Telegraph』は、プレミアリーグが「デジタル・ヘルス・パスポート」というシステムを検討中だと伝えている。それがうまくいけば、来年まで無観客と考えられてきたイングランドでも9月や10月に観客を入れ始めることができるかもしれない。
「デジタル・ヘルス・パスポート」とは、新型コロナウイルスの検査結果を個人データとリンクさせることで、自分がウイルスにかかっていないことを証明する“パスポート”だ。これが実現すれば、安全に観客をスタジアムに入ることが可能になる。
こうしたテクノロジーを駆使し、欧州ではサッカー界が先陣を切ってファンを本来の居場所に戻そうと試行錯誤している。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。