コロナ禍の影響で中断されたブンデスリーガも第33節を終え、残るはあと1節だけとなった。他国のリーグに先駆けてリスクを負った決断だったが、新型コロナウイルス(COVID-19)による重症者などは出ておらず、ひとまずシーズンを終えられるメドは立った。
6月20日、国営放送ラジオ局『DLF(Deutschlandfunk)』は、これまでの無観客試合の振り返り記事を出した。
無観客試合はアウェイチームに有利?
「もはやホームもアウェイも存在しない。感覚的には、どこかの中立地で試合をしているようなものだ。信じられないほどアウェイチームが勝っている」
フランクフルトのアディ・ヒュッター監督は、第32節のシャルケとのホームゲームで勝利を収めた後に話した。
ドイツのビジネススクール『WHU』によれば、コロナ禍による中断後、第26節から第32節までの7試合でホームチームが勝利したのは36%。中断前は毎節46%のホームチームが勝っていた。フランクフルトにいたっては、これまでホームの勝率がほぼ50%だったのが、中断後は25%(4試合で1勝1分2敗)にまで下がっている。
リスクを取るにも安心感が必要
ビュルツブルク大学でファン文化を研究するハラルド・ランゲ教授は、観客で埋まるスタジアムの特殊な効果について強調する。
「(ホームの歓声によって)選手たちに安心感が生まれる。これにより、選手たちは勇気を持って前に向かってプレーし、自信を持ってプレーできるようになるのだ」
実際に、結果として18チーム中11チームが、ホームでの勝率が下がっている。他にも、試合中の数値にも変化が見られるという。
ポツダムで試合分析などのサービスを展開する『Institut für Spielanalyse』のカルステン・ゲルスドルフは、「(ホームの)選手たちはリスクを取るプレーを選択しなくなっている。つまり、試合の主導権を握って1対1を仕掛けたり、リスクの高いパスを選択したりすることを放棄したことを意味している」と説明する。
これは、パスの本数自体は中断前に比べて増えているものの、シュートやドリブルの回数が減っているというデータと合致する。また、ゲルスドルフは「フランクフルトのようにボール保持よりも果敢なプレッシングからのショートカウンターを狙うチームにとって、アウェイでの無観客試合が適しているかどうかも説明できる」と言う。
「(フランクフルトのアウェイでの)ボール保持時のアクチュアルプレーイングタイムは、中断前よりもさらに短くなっている。つまり、自分たちのスタイルをさらに極端に突き詰めたのだ。ホームでの試合はそうはなっていない」
言い換えれば、ホームチームは“ボールを持たされる”時間が増え、リスクを負って攻撃のスイッチを入れるタイミングを失っていることになる。
無観客試合はファンの重要性を可視化した
『WHU』で教鞭を振るうドミニク・シュライアーは「中断後はホームチームの勝率が46%から36%まで落ちている。これは引き分けが増えているわけではなく、アウェイチームの勝率が明らかに上がっていることを示している」と話す。「7試合ではサンプルが少なすぎる」と前置きしながらも、無観客の環境が審判の判定に影響を与えている可能性があるという。
「ホームの観客が審判にプレッシャーをかけている可能性がある。そして、“無意識のうちに” アウェイチームにとって不利な判定をしている、という説明もできる。“無意識”という部分は強調する必要がある」
『DLF』は、英国のデータ会社の統計をもとに「似たようなファウルでも中断前に比べてアウェイチームのイエローカードの枚数が大きく減り、ホームチームにとって不利になるような判定が増えた」と付け加える。
ランゲ教授は「サッカーは1つの“全体”として理解しなければならない。各クラブや各チームだけではなく、ファンやサッカー文化も含めて“全体”として考えなければならない」とホーリズムの見方を強調する。
ゲルスドルフは「ドイツのサッカーファンにとっては良いニュースだ」と言う。期せずして、サポーターやファンたちの声援が試合の結果に及ぼす影響が可視化されたからだ。ランゲ教授も強調する。
「この発見は、ファンが試合の中で大きな意味を持つことを強調する。つまり、ファンがいなければサッカーは成立しないのだ」
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。