メキシコは現地時間6月16日時点で新型コロナウイルスの累計感染者数が15万人、死者数が1万7500人を超えており、今なお新規感染者数が数千人単位で増え続けている状況だ。しかし、リーガMXは2020-21シーズン前期リーグを7月24日に開幕させることを決定した。
リーグ戦は18チームによって行われるが、19-20シーズンまで参加していたモナルカス・モレリアの名前がなく、マサトランFCという聞きなれない名前のクラブが新たに参加することとなった。
支援されず、移転先を探す
モナルカスはミチョアカン州モレリアに本拠を置くクラブで、設立は1950年6月4日。大手テレビ局『TVアステカ』などを抱える『グルーポ・サリナス』が所有していた。
19-20シーズンの前期は7位、途中で打ち切られた後期は9位、総合8位だったため、成績不振で降格したわけではない。一方、マサトランFCはシナロア州マサトランのクラブで、設立は2020年6月2日。まさに“出来たてほやほや”だ。
モナルカスを抱える『グルーポ・サリナス』は、ミチョアカン州政府に対して年間4億ペソ(約19億円)の支援を要求していた。しかしコロナ対策に追われる州政府にその余裕はなく、拒否された『グルーポ・サリナス』は新たな“パトロン”を探すことになった。これに手を挙げたのがシナロア州政府だった。
シナロア州政府は2017年、スポーツ振興策の一環として新スタジアムの建設を開始した。2万5000人を収容するエスタディオ・マサトランの完成を目前に控え、ここを本拠地とするプロクラブの設立を目指し、モナルカスやプエブラ、ケレタロといったクラブと本拠地移転の交渉を重ねていた。
最終的にモナルカスとの交渉が成立し、マサトランへの移転とクラブ名変更が決定した。その日時が6月2日だったため、モナルカスはクラブ創設70周年の2日前に、クラブの歴史を閉じることとなった。
7000人が抗議のデモ
モレリアからマサラトンへ行くには州を2つ越えなければならず、直線距離で700km程度、離れている。モナルカスが赤と黄色をチームカラーとしていたのに対し、マサラトンFCは紫が主体。エンブレムも一新されており、モナルカスの面影は完全に消え去ってしまった。
クラブを失うことになったモナルカスのサポーターは、当然この決定に納得できない。コロナ禍が続く状況にもかかわらず、5月31日には約7000人のサポーターがスタジアムのゲート前に集合し、市内に繰り出して抗議のデモ行進を行った。
トップチームの選手はひとまずそのまま移行することになるが、アカデミー出身のFWミゲル・サンソレスはスタジアム前でサポーターたちに状況を説明して抗議行動を支持する姿勢を示し(結局その後、マサラトンFC加入を発表)、GKセバスティアン・ソサやDFガブリエル・アチリエル、GKルイス・マラゴンといった選手たちは退団を視野に入れているという。
また、モレリアでは「アトレティコ・モレリア」という新クラブを立ち上げて19-20シーズンにモナルカスを率いていたパブロ・ゲデ監督を迎え入れ、2部リーグに参入しようという動きもあり、「モレリアのプロサッカークラブ」を名乗る同名のSNSアカウントが次々に創設されてファンに期待を抱かせている。
Photo: Getty Images
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池田 敏明
長野県生まれ、埼玉県育ち。大学院でインカ帝国史を研究し、博士前期課程修了後に海外サッカー専門誌の編集者に。その後、独立してフリーランスのライター、エディター、スペイン語の翻訳家等として活動し、現在に至る。