「生理が近づいたり、生理の周期に入ったりすると、ケガのリスクがかなり大きくなることが分かりました」と話すのは、チェルシー女子チームで活躍するドイツ代表GKアン・カトリン・ベルガーだ。
6月3日付の『シュポルトビルト』によれば、チェルシーは3月から選手たちの生理の周期に合わせてトレーニングの負荷を調整する仕組みを導入したという。
トレーニングの負荷と生理の関係
エマ・ヘイズ監督は「女子は、男子とは1カ月間の過ごし方がまったく異なることが、そもそもの始まりでした」と話す。そして「自分たちのパフォーマンスをさらに改善するために、これらのことをより詳しく理解しなければなりません」と、自分自身の経験も交えて説明する。
女子サッカー選手に十字靭帯のケガが多いことと、生理の周期に因果関係があると見ている専門医たちの意見も寄せられている。こういったケガを予防するために、チェルシーはチーム内に各選手がスタッフ陣と体調を共有するためのアプリを導入した。
足のだるさや関節痛、腹痛や痙攣など、体調面の変化をアプリ内に記入し、これらの情報をもとに各選手の負荷を調整しているという。
全体トレーニング内で内容を調整
ベルガーによれば、このアプリは生理の周期を4つのフェーズに分けており、各選手それぞれのフェーズ応じて必要な食事メニューや体の状態を理解できるようになるという。
フェーズによって体のコーディネーション能力が落ちることや、ジャンクフードが食べたくなる時期の体重の浮き沈み、生理が原因で生じる体の炎症も考慮している。体調に応じて食べるべき物のアドバイスなども得られるようになっている。
こういった身体面の変化は考慮に入れるが、トレーニング自体はチーム全体で行い、個別トレーニングは行わない。
「基本的にはチームで全体トレーニングを行います。個別のグループトレーニングはごく稀に行われるぐらいです。各選手の個別の負荷は、例えばアスレチックトレーニングのスプリント本数を調整したり、トレーニング前のウォーミングアップを重点的に行ったりします」とベルガーは語る。つまり、全体で同じトレーニングを行うが、セッション数を各選手の体調に合わせて調整しているのだ。
女性スタッフの重要性が増す可能性も
ベルガーが「自分の体をより良くできるのは素晴らしいこと。クラブの価値も高まりますし、プロフェッショナルな対応をしてくれていると感じています」と言うように、選手たちからのフィードバックも好意的だ。
ヘイズ監督は「このチームの選手たちは、自分の生理についてよく理解している最初の世代となります。将来的に、世界中のサッカークラブにこの文化が浸透することを願っています」と、女子選手への対応の改善を期待する。
コロナ禍の影響もあり、試合の結果にどのように影響するのかはこれからわかるようになる。この問題に関しては、男性よりも女性のほうがおのずと理解していることも多く、選手ともコミュニケーションを取りやすい部分がある。総合的に考えると、将来的には女子チームのスタッフ編成に影響を及ぼすことも考えられる。
チェルシーの動きを見ながら判断することになるが、ドイツ女子代表のマルティナ・フォス・テックレンブルク監督も導入の可能性を否定しない。新しいシステムに貪欲に挑戦するチェルシーの動きに、女子サッカー界が注目している。
日本では2021年9月から「WEリーグ」が始まる。女子選手の「プロ化」を進めていく上で、選手たちの体を管理していく最適な方法を模索していくことも求められる。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。