オランダメディアの記事を読んでいると、時折「80・20」という用語を目にすることがある。これは一般的なオランダプロサッカークラブの収入源の割合を示す言葉だ。
クラブの収入は「80・20」
移籍金収入を除くと、サッカークラブの収入の80%をチケット収入、スポンサー収入、スタジアム内での飲食、マーチャンダイジングによる収入が占めており、テレビ放映権料は20%ほどだという。
オランダリーグが早々に2019-20シーズンの打ち切りを決定できたのは、政府の方針に従っただけでなく、無観客で試合を行うメリットが低いという側面もあった。
2020-21シーズンのオランダリーグは9月1日以降の開幕が見込まれている。今年いっぱいは無観客になるだろう、というのがおおむねの見方だ。最悪の場合、シーズンを通じて無観客になることも覚悟しないといけない。
売上構造が「80・20」であるため、無観客試合が長くなるほど、オランダのサッカークラブは経営が厳しくなる。
5月12日のヘーレンフェーン、ヘラクレス、ウィレム2を皮切りに、オランダ1部リーグの18クラブが来季のシーズンチケットの販売を開始したのは、現金収入を増やすためだ。
サポーターたちは、ホームで開催される全17試合が無観客になるかもしれないというリスクを承知で、すでに12万枚近いシーズンチケットを購入している。昨季の開幕時と比べるとマイナス48%。6月上旬としてはまずまずの売上だという。
「フルサポート」チケットが好調
今回、ほとんどのクラブのシーズンチケットに「フルサポート」というカテゴリーが生まれた。これは「全17試合が無観客で開催されたとしても、返金してもらわなくてかまわない」というシーズンチケットのこと。12万枚が売れたシーズンチケットのうち、実に6万枚がフルサポートだという。
アヤックスだけは「シーズンチケットの販売金額から無観客開催分を返金する」という条件で売り出しているため、フルサポートの項目は“ゼロ”という扱いになる。ただし、返金について「現金」「バウチャー」「返金希望せず」の3通りを後から決める方法を用意しており、実質的なフルサポートとなる「返金希望せず」を選ぶファンも出てくるだろう。
エールディビジ各クラブのシーズンチケット販売状況
デンハーグ:1000枚(うちフルサポート900枚)
アヤックス:3万枚(フルサポート非公表)
AZ:7500枚(うちフルサポート6525枚)
エメン:非公表
フェイエノールト:1万6721枚(うちフルサポート5039枚)
フォルトゥナ:1260枚(うちフルサポート984枚)
フローニンゲン:6500枚(うちフルサポート5720枚)
ヘーレンフェーン:4250枚(うちフルサポート3450枚)
ヘラクレス:4150枚(うちフルサポート4150枚)
ズウォレ:5389枚(うちフルサポート5281枚)
PSV:1万2800枚(うちフルサポート8960枚)
RKC:550枚(うちフルサポート550枚)
スパルタ:2344枚(うちフルサポート2252枚)
トゥエンテ:1万3654枚(うちフルサポート4360枚)
ユトレヒト:3182枚(うちフルサポート2785枚)
フィテッセ:1647枚(うちフルサポート1351枚)
VVVフェンロー:1034枚(うちフルサポート735枚)
ウィレム2:7012枚(うちフルサポート7012枚)
このアヤックスを統計から外すと、「フルサポート」の割合は66%というから驚異的だ。さらに、無観客試合分を「20-21シーズンのシーズンチケット更新に充当」「飲食・マーチャンダイジング購入に使えるバウチャーとして受け取り」といった条件のシーズンカードもある。
来季のシーズンチケットの順調な売れ行きに、オランダのメディアは「サポーターは応援するクラブへの忠誠心を示している」と報じている。20-21シーズンチケットは、コロナの影響を受けて経営に苦しむサッカークラブに対する募金の意味合いが含まれているのだろう。
Photo: Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。