早々に打ち切られたリーグ1。撤回を巡る狂騒曲がついに終結
5月16日にブンデスリーガが再開し、リーガ・エスパニョーラ、プレミアリーグ、セリエAも6月中旬から再開される予定だ。
そんな中、フランスで日増しに濃くなる論調は「リーグ1の打ち切り決定、早すぎたんじゃ?」という声だ。
「サッカーやれた」という風潮に
リーグ1と2を管理するプロフットボールリーグ(LFP)は、4月30日に今シーズンの打ち切りを発表した。
これはその2日前、エドゥアルド・フィリップ首相が演説の中で「集団スポーツは9月までは再開は無理。よってサッカーのリーグ戦も再開されない」と話したことに基づいたものだ。
この時は外出制限(ロックダウン)の真っ最中だったし、コロナ禍がその後どうなるかもわからなかったから、「まあ仕方ないのか……」というムードも漂っていた。
しかし、フランスでは5月11日にロックダウンが解除され、6月2日からはさらに緩和が進んで、最も感染者が多いパリ周辺と海外県の一部を除いては、カフェやバーなども通常営業、ジムやプール、劇場も営業を許可されている。
パリでも、カフェはテラス席のみ、ショップは入場制限、といった不便さはあっても、いつも通りの光景に戻りつつある。
となると「これならサッカーもやれたじゃん。実際、他の国はやっているんだし」と思う人も増えてくる、というわけだ。
PSG、リヨンはCLで不利な立場に
ネットメディアが行ったアンケートでも、ロックダウン解除もいつになるか先が見えなかった4月30日の時点では、65%の人が「この状況ではリーグ再開は無理」と感じ、打ち切りに賛成していたが、生活が徐々に戻りつつある今、半数以上が、「時期尚早だった」と回答している。
5月中旬、『BeINスポーツ』のインタビューに答えたUEFAのアレクサンドル・チェフェリン会長の意見も「個人的にはシーズン打ち切り決定は早すぎたように思う。事態が好転する可能性もあったわけだし、一部のリーグを除いて、再開できる可能性はあったはず。もちろん各国政府やクラブの決定は尊重するが……」というものだった。
つい先週も、テレビ局『TF1』のサッカー番組にリモート出演したビセンテ・リザラズが「ドイツがうまくやれている状況を見ても、打ち切り決定を再考する余地はあると思う」と私見を述べた。
「リーグ戦を打ち切る、というのは、スポーツ面での公平性という観点から考えてもあまりいいことではない。降格、昇格、欧州カップ戦出場権といったことで、本来ならそうならなかったはずの状況にさらされるのは、感情的にも難しい。それから経済面も当然重要だ。プレーをしたほうがクラブ側の損失を少なくできる。それに、サッカー選手はもともと鍛えているし、一般の人よりもメディカルチェックなども受けていて、感染や症状悪化を防ぎやすい状況にある」
周辺国と足並みがそろわないことで最も不利なのは、UEFAチャンピオンズリーグに参戦中のパリ・サンジェルマンとリヨンだ。
PSGは準々決勝進出を決めていて、リヨンはラウンド16の第1レグでユベントスに1-0で勝利している。
しかしこのままいけば、両チームとも3月中旬にリーグが中断して以降、一度も公式戦をせずにCL再開後の対戦に挑まなくてはならない。
リザラズも選手目線で、「(すでに多くの試合をこなしている)バイエルンにはアドバンテージがあるが、PSGとリヨンは試合のリズム感という点で絶対的に不利だ。実戦前の短期間のトレーニングでは、安定したパフォーマンスは出しにくい」と語っていた。
オラス会長がプレーオフ導入を進言したが…
そんな中、孤軍奮闘していたのがリヨンのジャン・ミシェル・オラス会長だ。
会長はまずLFPに異議を申し立てたが、これが棄却されると、首相とスポーツ相に書簡を送り、ついには最高裁判所としての役割も持つ国務院に、あらためてプレーオフという形でシーズンを終わらせることを提案する訴状を提出した。
UEFAが2019-20シーズンを終わらせるよう各国に推奨している8月3日までに、プレーオフ形式で最終順位を決定する、というのがオラス会長の提案で、会長が描いた青写真通りなら、中断時に7位にいたリヨンはもちろんのこと、15位にいたチームにも優勝やCL出場権獲得のチャンスが生まれることになる。
よって、首位のPSGを筆頭に、他のクラブはオラス会長に加勢する気配もなく、会長は孤独な戦いを続けていたのだが、降格が決定したアミアンとトゥールーズは会長に刺激されて、降格処分の見直しを求めるべく同じく国務院に訴状を提出していた。
しかして6月9日午後、国務院が出した判決は「シーズンの終了は覆さない。順位も中断時のまま確定。しかし、アミアンとトゥールーズの降格についてはいったん保留とし、LFPとFFF(フランスサッカー連盟)に、来季のリーグ1のフォーマットをあらためて検討するよう求める」というものだった。
リーグの打ち切りは確定だが、降格については来季のリーグ1を22チームにする等、現状以外の可能性を検討する、ということで決着した。
リヨンはすでにトレーニングを再開
オラス会長は無念だろうが、最後まで粘った奮闘ぶりには敬意を表したい。
会長は、「中断の時点でリヨンが2位にいたとしたら同じような行動はしていなかったでしょう?」という記者からの鋭い質問にも「もちろんしていたさ。私の子供たちに誓ってそう断言する」と答えていた。
実際、それはハッタリではないと思う。
敵も多いが、33年前にリヨンの会長に就任して以来、このクラブの再建、成長、そしてその延長線上にあるフランスサッカー全体の発展に賭けてきた彼の情熱には、並々ならぬものがあるからだ。
リヨンはどのクラブよりも早く、6月8日からトレーニングを再開している。来季の彼らを応援したい思いだ。
プレーオフもなんだか面白そうだったので、この結果はちょっと残念だが、これでここ数週間続いた、「打ち切り撤回?」騒動は終結し、各クラブとも来季への準備に集中することになる。
ただ、今回のことでは「何をおいてもまずサッカーリーグは再開」というスタンスだった国とフランスとでは、人々の生活の中でのサッカーの重要度や、何を優先するかという点で、個人差はあれど、全体として温度差があることをあらためて感じた。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。