コロナ禍でリーグが打ち切られ、リーグ・アン最多出場選手のキャリアが突然の閉幕
今回の新型コロナウイルスは、多くの人の人生に様々な形で影響を与えている。
スポーツ界でも、大会が中止や延期になったことで、プロやアマ、年齢やレベルにかかわらず、競技者としてのキャリアプランが変わってしまった人は少なくない。
フランスでは、4月28日にエドゥアルド・フィリップ首相が「大型フェスティバル・スポーツイベント等は、9月まで不可。サッカーの2019-20シーズンも再開しない」と宣言したことを受け、同30日にプロフットボールリーグ(LFP)が19-20シーズンの打ち切りを発表した。
これにより、現役選手でリーグ・アン最多出場試合数を誇る選手のキャリアが、あっけなく閉幕することとなってしまった。
その選手とは、ディジョンに所属するMFフローラン・バルモンだ。
“リーグ最強”の中盤の1人
リヨン郊外の出身で、リヨンの育成組織から2002年にトップデビューを飾った。トゥールーズへの期限付き移籍を経てニース、リール、そしてディジョンと、プロキャリアの18年すべてをトップリーグで戦い、40歳まで走り続けた。
現役選手では唯一、リーグ戦で500戦を超える513試合に出場している。単純計算で、1シーズン平均28試合以上に出場したことになる。ケガや出場停止以外は、ほぼ毎試合、先発で起用された。
キャリアのハイライトは2008-09シーズンから8年間プレーしたリール時代だ。2010-11シーズンには、リーグとフランス杯のダブル優勝も味わっている。
リオ・マブバ、ヨアン・キャバイェとともに形成した中盤トリオは、当時“リーグ最強”と言われたものだ。
打ち切りにも翻意せず、潔く引退
バルモンは典型的な“ボックス・トゥ・ボックス”プレーヤーで、168cmと小柄だが、90分間とにかくよく走る。
「彼がいれば大きく崩れることはない」と、見ているだけで安心感が抱けたということは、ピッチでともに戦う仲間には相当心強い相棒だったことだろう。どの指揮官も「チームに1人いてほしい」と願う、文字どおり屋台骨のような選手だった。
フランス代表は年代別代表を数試合経験したのみなので、国外での知名度はそれほど高くないが、フランス国内では“闘魂”の代名詞のような存在だった。
開幕当初から「今季が最後」と表明していたが、このような宙ぶらりんな終わり方にも翻意することなく「これをもって引退」と発表した。
すでにコーチングライセンスを取得中で、ディジョンのスタッフに加わることが決定している。数年後には監督としてピッチに戻るかもしれない。
元セネガル代表カマラも引退
バルモンの引退によって新たに出場試合数でトップに立ったのは、バルモンより2歳年上のブラジル人DFイウトンだ。
ブラジルからスイスを経由して、フランスリーグに到来したのが2004年。モンペリエの頼れるキャプテンである彼は、その献身的な姿勢により、自クラブのサポーターだけでなくあらゆるサッカーファンから絶大な尊敬を集めている。
国外の出身ながら、フランスリーグ在籍17年。出場試合数は現在483。このままいけば、来シーズンには500超えを達成するだろう。
以下は『レキップ』電子版に掲載された、現役選手の出場試合数ランキングトップ10だ。
1 ビトリーノ・イウトン(モンペリエ、42歳、DF、483試合)
2 ダニエル・コングレ(モンペリエ、35歳、DF、451試合)
3 ジミー・ブリオン(ボルドー、34歳、FW、442試合)
4 ステファン・ルフィエ(サンテティエンヌ、33歳、GK、428試合)
5 スレイマン・カマラ(モンペリエ、37歳、FW、423試合)
6 スティーブ・マンダンダ(マルセイユ、35歳、GK、423試合)
7 マテュー・ボドメール(アミアン、37歳、MF、418試合)
8 ディミトリ・パイエ(マルセイユ、33歳、FW、403試合)
9 ジェレミー・モレル(レンヌ、36歳、DF、388試合)
10 ロイク・ペラン(サンテティエンヌ、34歳、DF、383試合)
一般的に長寿なのはGKで、リーグ・アン最多出場記録を持つのもナントやパリ・サンジェルマンで活躍したGKミカエル・ランドロー(618試合)だが、ブリオンやカマラ、パイエとFWが3人も含まれているのはなかなか興味深い。
しかもパイエは今季もリーグ戦だけで9ゴール。7ゴールのブリオンはボルドーのトップスコアラーだ。
カマラは2002年のW杯日韓大会でベスト8入りしたセネガル代表のメンバーで、当時はまだ19歳だった。彼もリーグ打ち切りを受けて引退を発表した。モンペリエで歴代最多の433試合に出場。77得点は、クラブのレジェンドである元フランス代表監督ローラン・ブラン(84得点)に次いで2番目と、歴史に名を刻んでの勇退だ。
ランキング上位は実力者ばかり
モンペリエから3人もランクインしているのは、地元密着型で地に足を着けたチーム運営を行うこのクラブのカラーを表しているようだ。
イウトンとコングレの2人は今季も絶対的な主力だった。そしてカマラとイウトンは2011-12シーズン、カタールの財源をバックにつけたパリSGに一泡吹かせたリーグ優勝メンバーだ。
フランス代表で主力となる選手は、イングランドやスペインなど国外の強豪クラブに羽ばたいてしまうため、このランキングに名を連ねているのは代表では2番手、あるいはアンダーカテゴリーのみの経験者といった顔ぶれだ。
そのため対外的にはあまり知られていない選手もいるが、10人は全員がこの数字に見合った実力者だ。そして、実に味のあるキャリアを重ねてきた選手ばかり。
リーグ・アンを支える看板選手たちだ。
Photos: Getty Images
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。