5月18日、ブラジルの新型コロナウイルス感染者数が世界で3番目の多さになった。全国の州や市、区によっては外出規制やロックダウンを実施しているが、その勢いが収まる様子はない。
欧州と同時期の活動再開を目指す
感染の爆発が遅かったブラジルは、ヨーロッパの例を参考にしつつ早急な対応を行った。全国の感染者が2桁になった3月中旬、多くの州では外出規制が行われ、サッカーも急きょ、すべての大会が中断された。あらゆる大会のスケジュールが後ろ倒しされることを前提に、4月は公式的な休暇期間という扱いになった。
ただ、現在も感染者数、死者数が急カーブで上昇し続ける中、すでに最悪の時期を乗り越えたヨーロッパと同じペースでサッカーを再開させようとしている感がある。サッカー界では公式戦やそのためのチーム練習に関して、再開に向けた議論が盛んに行われている。
各クラブをはじめ、サッカーに関わるすべてが経済的な困難に陥っていることが一番の理由だ。ブラジルサッカー連盟は、全国レベルのリーグ戦やカップ戦より、移動の少ない州選手権から再開させるのがいいと考えて各州のサッカー連盟と検討を続ける一方、全国選手権3部と4部の全クラブに対し、所属する全選手の給料2カ月分を援助している。
しかし、ビッグクラブの多くが選手や技術委員会スタッフの20%から30%の給料削減を決めた他、ボタフォゴは45人、フラメンゴは60人、インテルナシオナウは44人、バスコダガマは50人以上と、職員の大量解雇を余儀なくされている。
本田所属のボタフォゴは試合を拒否
4月30日までの公式休暇期間を終え、多くのクラブでは「ホームトレーニング」と呼ばれる形でフィジカルコンディションを調整している。
「zoom」などのツールを使い、選手全員が同じ時間に、それぞれのコンディションに適したメニューをこなしていく。リモートとは言え、パソコンの画面に映る各選手に向けて送られるフィジカルコーチの指示は、ピッチにいるのと同じようにハードだ。選手たちはその環境をも楽しんでいるように見え、練習後は頼もしい笑顔のビデオコメントをクラブの公式SNSなどにアップしている。
リオデジャネイロ州では、州サッカー連盟が6月中旬の州選手権再開を目指しており、4大クラブ(バスコダガマ、フラメンゴ、フルミネンセ、ボタフォゴ)以外も準備を始められるよう援助し、感染検査の実施が始まっている。
ただ、リオの中でもボタフォゴとフルミネンセだけは早期再開に反対の立場を取っている。
本田圭佑が所属するボタフォゴでは、元クラブ会長で、現在はサッカー実行委員を務めるカルロス・アウグスト・モンテネグロ氏が、感染数が激増する中での再開ムードの盛り上がりに「頭がどうかしている」と批判し、「ブラジルやリオ州のサッカー連盟がプレッシャーをかけてきたとしても、ボタフォゴはプレーしない。それで勝ち点を失うならばそれでもいい。失ったポイントごとに1つの命を救うことになるのだから」と明言する。
パウロ・アウトゥオリ監督も「この時期にサッカーのチーム活動に戻るなんて馬鹿げた話に思える。これほど多くの死と苦しみに直面しているというのに」と強く語り、チームは今もホームトレーニングに取り組んでいる。
ちなみに、リオ州のサッカー選手組合は「ソーシャルディスタンスを維持するべきであり、サッカー活動の再開は、少なくとも10日間延期し、その後、10日ごとに延長か再開かを判断していくのがいい」という考えであることを表明している。
練習が再開されている州も
サッカーメディアでも意見が分かれている。元ブラジル代表で、現在コメンテーターを務めているエジムンドは、出演するサッカートーク番組で繰り返し「クラブには優秀な医療チームがいるうえ、専門家の意見を受けながらクラブでの練習、無観客試合をするなら、感染を避けるための万全の対策を講じることができるはずだ」と語り、そのための金銭面や労力を考えたとしても、早期再開を目指す努力は価値がある、という立場でコメントしている。
リオ市はチームが集合しての練習再開はまだ許可していないが、感染者が比較的少なく、4月いっぱいで外出規制の段階的緩和が始まったリオグランデ・ド・スル州では、グレミオとインテルナシオナウの2大クラブが、感染防止のためのあらゆる対策を講じた上で、トレーニングセンターでの練習を再開した。ミナスジェライス州も、今週からこれに続いている。
映像を通して見る選手たちの表情は、やはり生き生きとしているようだ。とは言え、ブラジル全体の状況は、まだあまりにも厳しい。
Photos: Kiyomi Fujiwara, Pedro Souza/Agência Galo/Atlérico, Botafogo TV , LUCAS UEBEL/GREMIO FBPA, Getty Image
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。