スペインの非常事態宣言は5月9日中に解除される。約2カ月間に渡る外出禁止に先駆け、4月27日からは子供たちの大人同伴での散歩が許可され、5月4日からはランニングなど単独での運動が許されるのではないか、という期待もある。
となると、4月6日の記事でお伝えしたラ・リーガ製の個人練習から始まる練習再開プランが、早くて5月4日、遅くとも11日には晴れて実施可能になるわけだ。
再開されても無観客が現実的
だが、この明るいニュースと同時に、そんなに明るくない現実も受け入れなくてはならない。それは、リーガが再開されたとしても無観客になること。今季残り試合だけでなく、少なくとも今年中は、もっと悲観的な見方では来年中も、スタジアムに人を入れられないのではないか、と取り沙汰されている。
伝染病の専門家の見方は「ワクチンができるまで」サッカーやコンサートのような大規模イベントは開催できないということで一致している。UEFAチャンピオンズリーグのアトランタvsバレンシアがイタリアとスペインの感染爆発の火元だったことを思い出せば当然の判断だろう。
無観客試合が長期間続けば、入場料収入は総売り上げの2、3割を占める柱の1本だから、クラブの財政への影響は避けられない。が、もっと直近の今季のことだけを考えれば、最大の被害者は選手となるに違いない。
なぜなら、個人練習の間は自宅から通えるが、グループ練習以降、リーガ再開中も含めて合宿が前提となるからだ。
選手が直面する新たな隔離生活
先のラ・リーガのプランでは、食事もそれぞれの個室に分かれて1人で摂り、余暇の時間もチームメイトと集まるのは禁止、もちろん外出も禁止……。すなわち、選手たちは非常事態宣言が終わった途端、新たな隔離生活に入ることになるのだ。
選手、テクニカルスタッフ、調理や掃除、警備の担当者などを含め、1チームあたりの総勢は100人ほどとされ、完全な隔離状態を保つには全員が泊まり込まなくてはならない。20チーム分の計2000人うち、1人でも新型コロナウイルスの陽性者が出ればすべての活動はストップせざるを得ず、そうなれば再々開という選択肢はなくなるからだ。
しかも、期間は練習とコンペティションを含めて2カ月半は続く。48時間ごとに試合が組まれる殺人的なカレンダーで、試合会場と練習グラウンドとホテルの往復だけを繰り返し、家族にも会えない。そんな非人間的な生活を強いられれば、心身に不調をきたさない方がおかしいと思うが、どうだろうか。
今週、犬猿の仲であるラ・リーガとスペインサッカー連盟が、国の仲裁の下でリーガ再開に合意したばかり。さらにラ・リーガは4月21日、各チームのキャプテンを集めて再開のオリエンテーションを実施した。だが、いずれの席にも選手の利益を代表する労働組合、スペインサッカー選手会(AFE)は招待すらもされていなかった。
Photo: Getty Images
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。