アーセナルの公式マスコットをご存じだろうか? アーセナルのユニフォームを着た巨大な緑の生物、「ガンナーザウルス・レックス」である。その名前から恐竜の一種であることは想像できるが、詳しい生態は知られていない。今回、そんなガンナーザウルスの謎に迫る記事がスポーツ情報サイト『The Athletic』に掲載されたので紹介したい。
Tレックスの仲間なのか?
ガンナーザウルスが恐竜なのは間違いない。クラブの発表によると、1993年に旧本拠地ハイバリーのノース・バンク(サポーターが陣取るスタンド)を建て直す際、基礎工事で土を掘り返したら「巨大な卵」が出てきたという。それをクラブのブランケットで温めると、殻が割れて中から恐竜の赤ちゃんが出てきたそうだ。そのため「ガンナーザウルス・レックス」と名付けられた。ちなみに、お披露目は1993年8月20日のマンチェスター・シティ戦で、チームも3-0で快勝している。
ここまではご存知の方もいると思うが、『The Athletic』はさらに深堀りして専門家、それも恐竜の専門家たちに話を聞くことにした。すると古生物学者のデイヴィッド・モスカート氏とロンドン自然史博物館のポール・バレット教授は、二人ともガンナーザウルスを「獣脚類(じゅうきゃくるい)だろう」と分類した。
獣脚類とは「鋭い爪を持ち、後ろ足だけで歩く恐竜」だという。陸上最大級の肉食恐竜の1つであるティラノサウルス(Tレックス)も獣脚類なので、“Gレックス”が獣脚類なのも納得できる。英国ではオックスフォードでメガロサウルスの骨が見付かるなど、過去にも獣脚類が発見されているのだ。しかし、バレット教授によるとロンドンは「地層が若すぎる」ので珍しいという。
身体的な特徴を見ても、かなり珍しい種のようだ。獣脚類の大半は進化の過程で手の指が3本以下に減ったそうだが、ガンナーザウルスには指が4本ある。そのためモスカート氏は「まだ指が4本だった頃の、非常に古い種族かもしれない」と推測する。
混血? 突然変異? 少年のデザイン?
一方、エディンバラ大学の著名な古生物学者であるスティーブ・ブルサット氏は他説を唱える。ガンナーザウルスは、ケティオサウルスのような「竜脚類(りゅうきゃくるい)」の可能性があるという。それどころか「いくつかの種族の混血」も考えられるそうで、「まだ発見されていない遺伝的突然変異体かもしれない」という。
そこで『The Athletic』は、1990年代のアーセナル首脳陣による科学実験説を疑い出す。当時のアーセナルは、ジョージ・グレム監督が賄賂を受け取って解任されたり、不発に終わるFWクリス・キウォミャを125万ポンドで獲得したりと、奇怪な行動が目立ったのだ……。
そう考えると、ガンナーザウルスは本当に謎多きマスコットだ。彼の誕生ストーリーにも諸説ある。真相は分からないが、中には11歳の少年による「デザイン説」もある。アーセナルは1993年にファンの子供たちにマスコットのデザインを公募した。その中からピーター・ラベル君(当時11歳)による「アーセナルのユニフォームに身を包んだ恐竜」のデザインが選ばれた。
ラベル君は、ちょうど映画『ジュラシック・パーク』が流行っていたため恐竜を選んだと明かしており、後にデザイン画やクラブからの当選通知の手紙を公開している。だから、この説が最有力なのは間違いないが、そんな回りくどいことまでしてアーセナルは何かを隠そうとしたのかもしれない。ガンナーザウルスの正体は、永遠に謎のままだ……。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。