全土封鎖中で街が静まり返ったスペインにおいて、バルセロナだけが大揺れに揺れている。
4月9日、クラブを動かす理事6人が一度に辞任した。理事会はバルトメウ会長が率いる最高議決機関で、株式会社で言えば取締役会に当たる(バルセロナはソシオ制なので取締役会とは呼ばれない)。
辞任の理由は会長のマネージメントに対する抗議。発端は、理事会のメンバー変更を企てた会長が2人の副会長に辞任を勧めたことだった。全土封鎖中で顔を合わせることもできない状況での、この突然の通告に怒った2人と4人の賛同者が連名で辞表を突きつける形になった。
続々と出てくる会長の疑惑
会長周辺の不協和音は2017年夏にネイマールが移籍した頃から起こり、代役のコウチーニョとデンベレの不発、UEFAチャンピオンズリーグでローマとリバプールに2年連続で逆転負けしたことを経て拡大。バルベルデ監督解任をめぐってはメッシを筆頭とする選手とも対立し、抑え切れないレベルに達していた。
さらに2月にお伝えした架空のアカウントを使った会長擁護、“政敵”批判疑惑も浮上し、それまで会長の足下を支えてきた理事会からも不信の声が上がっていた。
辞任した元副会長の1人は、その情報操作が疑われる会社への報酬が相場の10倍近い高額(100万ユーロ=約1億1870万円)で、しかも内部監査を通さなくて済むように分割して支払うなどのモラルに反する行為があったと主張している。
選挙をしても負け戦は明白
クラブ周辺ではこうしたゴタゴタを見て、バルトメウ会長の信を問うべきだ、という声が高まっている。『ラ・バングアルディア』紙のアンケートでは、90%以上が会長選挙をすべきと回答している。
14年に就任し15年に再選されたバルトメウ会長の任期は来年6月まで残っている。繰り上げ選挙は可能なのだが、その可能性は低いのではないか。
というのも、このままリーガやCLが未消化のまま終わると、放映権収入のカットによって財政危機に陥ると考えられているからだ。
選手の年俸カットに真っ先に取り組んだクラブの1つがバルセロナだった、というのは記憶に新しい。万が一このままリーガが終了となればリーグ優勝のタイトルは手にするだろうが、それだけでは内紛+財政逼迫というマイナスを補うことは難しい。負け戦が明白なのに戦いに打って出る者はいないだろう。
スペインでは4月25日までの全土封鎖の再延長が正式に決まった。感染者数、死亡者数ともに増加率が下がっているものの、さらに15日間の再々延長が噂されている。サッカーメディアのニュース不足解消にバルセロナは大きく貢献している。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。