新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、リーグ戦停止はおろか各チームともに練習も止まっているセリエA。クラブの売却交渉も同様に停滞している。
アメリカにおけるトヨタの5大販売網の一つ『ガルフ・ステーツ・トヨタ(GST)』のチェアマン、ダン・フリードキン氏によるローマ買収が直に影響を受けているのではないか、という懸念が高まっている。
当初の条件が大幅に変更され…
「ウイルスがフリードキンを驚かせた」。イタリアのメディアでこのニュースが流れたのは3月初旬のこと。ジェームス・パロッタ会長との間で保有権譲渡についての交渉が進み、サインを締結するという話になっていたものの、3月3日に予定されていたとされる会談が延期になった。
そのまま交渉から撤退か、というニュースも流れたが、パロッタ会長は3月30日、地元ラジオに対して「フリードキン氏への保有譲渡への可能性は常にある」と交渉の継続をアピールしていた。
だが、同日の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によると、フリードキン氏はCOVID-19感染前に提示していた7億ユーロの評価額から1億ユーロを減額して水面化で提示していたという。
そして4月2日、フリードキン氏が正式に提出したオファーは、保有権のうち51%を獲得する意思を示した、というものだった。クラブの売却でおよそ9000万ユーロ分のキャピタル・ゲインを期待していたというパロッタ会長は、「これでは利益がない」と1回目のオファーを断ったという。
アメリカの状況次第では交渉に影響も
気になるのは今後の展開だ。希望通り売却できなければローマの資金繰りも厳しくなってくる。地元紙『メッサッジェーロ』によると、ローマはUEFAチャンピオンズリーグ出場を逃したことや移籍金収入が入らなかったことで、1億1000万ユーロの赤字が発生すると見込まれていた。
加えて今回のウイルス渦だ。セリエAが再開できるにしても無観客での実施が濃厚と見られており、「クラブの収入はさらに減る」と『メッサッジェーロ』は報じている。
パロッタ会長は資本増強でしのごうとしているようだが、「ロレンツォ・ペレグリーニやニコロ・ザニオーロなど、他クラブから引きのある選手の売却は避けられない状況になる」と地元紙は書いている。
一方、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によれば、フリードキン氏サイドは締結を急ぐ構えはなく、イタリアの情勢やクラブの経営状態の推移なども見ながら交渉に移るという。
ただ、本国アメリカでも爆発的な感染拡大で失業者が大量に出ることが確実視されており、「ローマの買収交渉に影響が出ないはずがない(『ガゼッタ・デッロ・スポルト』)」という懸念も浮上している。
コロナウイルスショックは試合の開催にとどまらず、様々な影響をサッカー界にもたらすことになりそうだ。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。