NEWS

“フェイク・ファン”を使用する際には細心の注意を払うべし

2020.04.05

 再開しても無観客。そんな決断を強いられる日が来るかもしれないので、参考のためにある記事を紹介したい。イングランドでは過去に、試合の熱気や雰囲気を損なわないために“フェイクのファン”を用いたクラブがあると英紙『The Guardian』の電子版記事が綴っている。

最初は爆笑、後に罵声で即封印

 ファンから寄せられた情報によると、2005-06シーズンにミドルズブラ(現イングランド2部)が斬新なアイデアを打ち出したという。スティーブ・マクラーレン監督率いる当時のボロは、UEFAカップ(現UEFAヨーロッパリーグ)で快進撃を見せていた。そこでクラブは、選手たちを後押しするために応援チャントの音声を収録することに。ファンに呼びかけたところ、12名ほどが収録に参加したという。

 そして迎えたUEFAカップ準決勝のステアウア・ブカレスト戦。ファーストレグを0-1で落としていたボロは、本拠地での第2戦で逆転勝利を目指した。この試合は無観客ではなかったが、前半25分の段階で2点を奪われ、2戦合計0-3という絶体絶命のピンチに陥った。

 すると、場内スピーカーからあらかじめ収録した「Come on Boro」の音声が流れた。スピーカーを通して改めて12名の男たちの叫び声を聞くと相当な違和感があったそうで、会場は爆笑に包まれたという。数分後、再びスピーカーから「Come on Boro」が流れると、今度は場内のファンから汚い罵声が飛ぶようになった。ファンの反感を買ってしまったクラブは、すぐにこの音声を封印したという。

 試合はというと、この“フェイク声援”に効果があったとは思わないが、ボロが「クラブ史上最高の夜の1つ」となる大逆転勝利を収めて決勝に駒を進めた。ボロに関する記事はそこで終わっているのだが、この試合を掘り下げてみると興味深いストーリーが見えてくる。

指揮官の名采配で大逆転

 まずは、どのようにして逆転したのか。試合早々に計0-3の崖っぷちに立たされたボロは、前半26分にCBに代えて元イタリア代表FWマッシモ・マッカローネを投入した。すると同選手のゴールを皮切りに反撃を開始。73分には計3-3の同点に追いついた。それでも、このままではアウェイゴール差で敗れるという状況で、やはりマッカローネが89分に劇的なダイビングヘッドを決めて大逆転したのだ。

逆転劇の立役者となったマッカローネ(右)を称えるマクラーレン監督(中央)

 前線にはマーク・ビドゥカやジミー・フロイド・ハッセルバインク、他にもMFスチュアート・ダウニング、MFファビオ・ロッケンバック、MFジョージ・ボアテング、GKマーク・シュウォーツァーなどのタレントを擁し、見事にクラブ史上初の欧州カップ戦ファイナルへと進出した。そして、大逆転の名采配を振るったマクラーレン監督は、試合の1週間後にイングランド次期代表監督に任命されるのだった。

 しかし、UEFAカップ決勝では格上のセビージャ相手に成す術もなく0-4で惨敗。さらにマクラーレン監督は、イングランド代表でも24年ぶりに欧州選手権(ユーロ2008)出場を逃す失態を演じて解任されることになった。

 それでも、代表監督の系譜はしっかりと受け継がれていた。現在、代表チームを率いて来年に延期されたEURO2000に出場する監督こそ、あのステアウア戦の前半早々に交代させられたギャレス・サウスゲイトなのだ。

満席スタンドの絵に批判が続々

 ちなみに、記事によると“フェイク・ファン”の事例は他にもあるという。1992年、アーセナルの旧本拠地「ハイバリー」のノーススタンドが改築された。そのためプレミア初年度の1992-93シーズン、アーセナルは工事中のゴール裏スタンドにカバーをかけ、そこに満席のスタンドの“絵”を描いたのだ。

 しかし、これが物議を醸してしまう。すぐに「黒人のファンが少なすぎる」と指摘を受けて、絵を修正することに。すると今度は、子供のチャリティ団体から「親には見えない人の隣に子供がいる」と苦情が出たため、子供と隣の大人の肌の色を塗り直した。

 だが、次は「子供の隣に母親がいない。そもそも女性が少ない」と指摘されて1000名ほど女性を追加することに。最上段の左端には4名の修道女まで書き足したという。不運にも、そのうちの1名はDFリー・ディクソンのクリアボールを顔面に食らったとか……。

 というわけで、万が一にも“フェイク・ファン”を用いる時は、細心の注意を払うべきだろう。


Photos: Getty Images

footballista MEMBERSHIP

TAG

アーセナルギャレス・サウスゲイトスティーブ・マクラーレンミドルスブラ文化

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

関連記事

RANKING

関連記事