新型コロナウイルスの感染状況が深刻化し、ブラジルでも日を追うごとに市民生活への影響が大きくなっている。サッカーも例外ではなく、3月15日を最後に南米大陸や、ブラジルの国単位、州単位のすべての大会が、再開の目処も立たないまま中断・中止されている。
スタジアム、メディアが対策に貢献
そんな中、この事態に対して「サッカーで貢献できること」が常に模索されている。その1つが施設の利用だ。
リオデジャネイロではボタフォゴのホームスタジアムであるニウトン・サントス、サンパウロではアレーナ・コリンチャンス、ブラジリアではマネー・ガリンシャ・スタジアム、クリチーバではアレーナ・ダ・バイシャーダ、ベロ・オリゾンテではミネイロンといったワールドカップや五輪の舞台となったスタジアムをはじめ、各地のスタジアムや各クラブのトレーニングセンターなど、多くの施設が新型コロナウイルスへの対応に必要な目的に使用されるよう申し出された。
実際、マネー・ガリンシャ・スタジアムは利用方法を検討中。アレーナ・コリンチャンスは献血会場として利用される。サンパウロのパカエンブー・スタジアムでは、202のベッドを備えた仮設の医療センターをピッチに建設中で、4月第1週から稼働させる予定となっている。
感染拡大を防ぐべく不要不急の外出を避ける生活に、サッカーメディアも貢献している。
ブラジルではサッカーを扱うスタジオ生放送の番組が多いのだが、コメンテーター陣や、番組によっては司会者も含めた全員が、それぞれの自宅からスカイプなどのコミュニケーションツールを通して出演している。ゲストの現役選手や元選手たちも、同様の方法で生放送のトークに参加している。
プロデューサーと話すと、こんなことを言っていた。
「第一に、出演者やスタッフ、その家族や周囲の人たちの健康が大事であるため、自宅でできることは最大限そうするようにしている。それに、視聴者に対しては、有名人が自宅にいることが模範になる」
「そして、スポーツ報道のプロとしては『こんなふうにいろいろなことが工夫できるんだ』というところを見せないとね」
本田ら選手もSNSで啓蒙活動
クラブや選手たちは、SNSを使って自宅での自主トレの様子など近況を伝えるのはもちろん、「家にいよう」とメッセージを送ったり、手を洗う姿や一般の人でも自宅でできるエクササイズをビデオで投稿したりと、何らかを発信することで啓蒙活動に貢献している。
本田圭佑の発信も興味深い。サポーターの熱烈な歓迎を受けてボタフォゴに加入し、ついにデビューを迎えた3日15日の試合が、コロナウイルスによって無観客開催となった。
現場に来ていたブラジルのリポーターやコメンテーターに聞くと、「本田は33回のパスのうち1回しかミスしなかった」「最初の3回のパスのうち、2回でチームメイトをゴール前に押し出した」などと、そのクオリティが垣間見えたことを評価していた。
当日、話を聞いた5人全員が「これで試合勘やフィジカルコンディションが完全に戻れば……」と期待感を語っていたのだが、まさにこれから、という時にすべての試合と練習が中断されてしまった。
それでも、本田は自身のTwitterを使って前向きな発信を続けてきた。さらに、ポルトガル語で「五輪は来年に延期された。問題ない。これからはあなたたちのためにプレーすることに最大限集中できる」とツイートした時には、ボタフォゴサポーターからの歓喜の返信が殺到した。
「朝から泣かせないでよ、ありがとう」「馬鹿野郎、愛してるぞ!」
また、「僕はフルミネンセサポーターだけど、本田はコミュニケーションの、そして、サポーターへの愛情表現のお手本だ」と書き込む人もいる。プレーを見せられない今も、本田はそうやってサポーターの期待感やモチベーションを高め続けている。
それぞれの立場から、自分にできる何らかの形でこのパンデミックに対抗しようとしている。それが今のブラジルサッカー界の1つの側面なのだ。
Photos: Kiyomi Fujiwara, FOX Sports Brasil, Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。