「近所で奇妙なことが起きたら誰を呼ぶ?」
普通なら警察を呼ぶところだが、映画好きな方はリズムに乗って「ゴーストバスターズ!」と歌うはずだ。1984年公開の大ヒット映画『ゴーストバスターズ』は、斬新なストーリーと個性的なキャラクターが好評を博し、世界中で社会現象を巻き起こした。数年後には第2作が制作され、2016年には女性キャスト版も公開された。そして今年、オリジナルメンバーも出演する『ゴーストバスターズ/アフターライフ』という最新作が封切られる予定だ。
同シリーズは主題歌も有名だ。軽快なベースラインが特徴の楽曲は全米チャートで1位に輝き、1984年のアカデミー歌曲賞にもノミネートされた。誰もが一度は耳にしたことがあるはずだ。その曲の歌詞が冒頭の「Who you gonna call?(誰を呼ぶ?)」である。
巨大バナーで指揮官を“歓迎”
心霊現象に悩まされているのなら名優ビル・マーレイが演じるゴーストバスターズ(幽霊駆除隊)を呼べばいいのだが、もし悩まされる相手が“降格ゴースト”なら、誰を呼ぶべきなのか?
オランダのデンハーグはその答えを知っている。エールディビジで下位に低迷する同クラブは2019年末、降格を免れるべくイングランドから“隊員たち”を招いた。それがアラン・パーデュー監督とアシスタントのクリス・パウエルである。
パーデューはウェストハム、チャールトン、ニューカッスルなどを率いてプレミアリーグ計300試合以上の実績を持つ指揮官だ。一方で、元イングランド代表のパウエルは引退後にチャールトンやハダースフィールドを率い、昨年9月からはイングランド代表のコーチを務めていた。
彼らのオランダでの初陣はウィンターブレイク明けの一発目、1月19日に行われたリーグ戦だった。しかも、相手は最下位のRKC。下から2番目のデンハーグにとっては勝利が必須のホームゲームとあり、いつになく気合十分のサポーターが巨大バナーで新監督を迎えたのだ。それが『ゴーストバスターズ』をモチーフにした横断幕だった。
同映画の“ゴースト”のマークに「DEGRADATIESPOOK(降格ゴースト)」と書き加え、そこに「Who you gonna call?」の大きな文字と、駆除隊員に扮したパーデューとパウエルが描かれたデザインで、全長30mほどありそうな巨大なバナーだった。これには英国『BBC』も「過去に独創的な横断幕はたくさんあったが、最も印象に残る1つだ」と大絶賛。
チームも無事に2-0で“逆天王山”を制し、実に3カ月ぶりの勝利を手にしたのだが、指揮官は試合後も慎重な姿勢を崩さなかった。「どうせマスコミはこれを使っていつか私を馬鹿にするのだろうね」と牽制しつつ、「だから少し恥ずかしいが、それと同時に心が温まった。素晴らしい歓迎だ」とファンへの感謝を口にした。
“ゴースト退治”は成功するか
確かにパーデューはニューカッスル時代に苦い思い出がある。一時はチームを5位に導く好成績を残してもてはやされ、契約を8年も延長したのだが、その途端にチームは残留争いに巻き込まれ、異例の長期契約を散々、揶揄されたのだ。
2年前には“ゴースト退治”に失敗している。2017-18シーズンの途中からウェストブロミッチで残留の使命を請け負うも、プレミア18試合で1勝しかできずにわずか4カ月で解任され、結局チームもそのまま降格。以来、パーデューは監督業から遠ざかっていたのだ。
だから今回、パーデューに余念はない。コネを使って母国からDFサム・スタッブス(エバートンで活躍したアラン・スタッブスの息子)やMFジョージ・トーマス(レスターのウイング)などをローン契約で補強。そして初陣を勝利で飾ったわけだ。
しかし、残留争いの重圧がのしかかる本当にシビアな戦いはここからだ。果たしてパーデューは、今夏に全米で新作が公開される時、笑顔でスクリーンを眺めることはできるだろうか?
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。