2月下旬、世界3大祭りの1つと言われるリオのカーニバルの季節が今年も訪れ、世界的に有名なパレードやストリートのサンバで大いに盛り上がった。
あのパレードは、単に華美であれば良いものではない。毎年、チームごとに1つのテーマを決め、そのテーマに基づいて、サンバの歌詞やメロディーはもちろん、山車、衣装、踊り、パーカッションと、すべてが構成される。それが詳細にわたって採点され、優勝を競う。サッカーで言う1部リーグ、2部リーグのようなランクがあり、昇降格もあるコンテストなのだ。
サッカーも人気テーマの1つ
テーマは偉大な人物、ブラジルや世界の歴史的な出来事、時事ネタなど、自由に決定される。中でもサッカーはブラジル人にとって最も身近で、最も愛するものの1つであるため、パレードの要素に取り入れられることもある。
過去には2002年ワールドカップでのブラジル優勝とロナウドを称えたパレードがあったし、2016年にサントス市とサントスFCの魅力が描かれた時には、ストライカーのガビゴウを含む当時のサントスの若手選手たちが参加した。
今年の場合、その1つが「インペラトリス・レオポウニデンセ」というチーム。“夢と笑顔、歌があふれた喜びの列車で旅に出よう”という明るいテーマの中に、ジーコを称える衣装や小道具の一群が登場したのだ。
2014年には、このチームがテーマそのものを“ジーコ”にしたことがある。パレードを丸ごと使ってジーコのサッカー人生が描かれ、鹿島アントラーズや日本代表も、山車や衣装によって表現された。ジーコ本人もフラメンゴをモチーフにした衣装を着てパレードに参加した。
また、今年は「ベウフォ・ホッショ」というチームが、ブラジル女子代表のマルタと、彼女のサッカーを称えるパレードを展開した。マルタはブラジル北東部の街からサッカーのためにリオに移ってきた20年前から、このチームの本拠地であるベウフォ・ホッショの街と付き合いがある。
山車に乗って参加したマルタは「パレードの間中、一緒に歌いながら、感動し過ぎて何度も泣きそうになった」と、終了後に興奮とともに語った。ブラジル女子代表のピア・スンドハーゲ監督も参加してパレードに花を添えた。
「リオっ子の血の中に流れる」
よく言われる「ブラジル人選手は外国でプレーしていても、カーニバルの季節になるとなぜか事情ができて帰国してしまう」というのどかな現象は、さすがに昔話だ。ただ、フィオレンティーナ時代、そういう評判を作った原因の1人であるエジムンドは、今も毎年欠かさず参加している。
「サッカーとカーニバルはリオっ子の血の中に流れている。僕もサッカーはもうプレーできないけど、サンバはまだ踊れるよ(笑)」と笑顔で語ってくれる。
そのエジムンドが「僕の愛と情熱」と呼んでいるのが「サウゲイロ」というチームだ。メンバーは「今年はエジムンド、練習に数回しか来てくれなかった」と愚痴っていたが、逆に言えば練習から数回参加しているのだし、例年ならもっと参加しているということ。そうやって普段からチームを盛り上げ、自分も楽しむのだ。
パレードには参加しない現役選手たちも、家族や友人と観覧する。カーニバル中も試合や練習は続くが、このパレードの夜だけは一晩中楽しむことが許され、翌日の練習が夕方からになったり、試合の日程によっては、1日だけ休みになったりするチームもある。
元代表SBの歌が名物
ストリートでもパレードがあり、広場やビーチがサンバ会場となって大小様々なイベントが限りなく開催される。そこでもサッカー選手たちは盛り上げに一役買っている。
その1つ「フラ・マスター」は、フラメンゴのOBたちが多く集まるため、サポーターに人気のイベントだ。ビーチ沿いの軽食スタンドで行われ、ジーコの元チームメイトであり、元ブラジル代表左SBだったジュニオールの歌が名物だ。
ジュニオールは「こうして仲間が集まって、サポーターと一緒に楽しめるんだから、最大限に生かさないとね」と、マイクを握る。
カーニバルの喧噪より、リゾート地に行ってのんびりする方が好きなブラジル人もいる。とは言え、やはりエジムンドの「サッカーとサンバは血の中に流れている」という言葉が決して比喩とは思えないことをあらためて感じるのがこの季節だ。
Photos: Kiyomi Fujiwara, Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。