ウインターブレイクの間に、ブンデスリーガおよびドイツ2部リーグ所属の各クラブに1通の手紙が届けられた。ドイツサッカーリーグ機構(DFL)所属のクラブに対して、「審判、試合自体、そして対戦相手に対する不当な行為を行った者は、妥協のない制裁を受ける」というものだ。
監督にもイエローカードが提示されるなど、今シーズンからルールの変更があったものを、さらに厳格化したのだ。その背景には、アマチュアサッカー界への“お手本”になってほしいという意味合いがあるという。2月10日の『キッカー』が報じている。
増化する審判への暴力にサッカー連盟が対処
ドイツのアマチュアサッカー界では、年々暴力が増え続けている。昨年10月末には、ベルリンサッカー連盟主導の6部以下のリーグが全試合中止となった。審判団がストライキを起こしたためだ。その10月の時点で、今シーズンだけですでに109件のピッチ上での暴力や差別が報告されていた。
ベルリンサッカー連盟審判運営の責任者であるイェルク・ヴェーリンク氏は、「そのうち53件の被害者は審判である。この数字は警告が必要なシグナルだ。対処を施し、この傾向を止めるべく動かなければならない」と語っている。
日刊紙『ターゲスツァイトゥング』によると、ストライキの発端はベルリン1部(ドイツ6部)の試合中、レッドカードが4枚も出される荒れた展開になったことだった。試合後、この判定に不服だった選手の1人が、ロッカールームへと向かう途中に審判を殴りつけたのだ。
ベルリン州のサッカー連盟は、その選手の所属クラブをリーグから締め出す判断を下した。だが、この判定を不服としたクラブが提訴し、その訴えが認められて、クラブは引き続き同リーグでプレーできることになった。
警告・退場の基準が厳格化
審判団のストライキは、この判決への抗議として行われたものだ。この傾向を受け、ドイツサッカー連盟(DFB)も動き出した。より具体的に警告(程度によっては退場)の基準を提示したのだ。その基準は次の8点となる。
1.対戦相手へのイエローカードの要求/VARの要求
2.(抗議の意味合いを含む)他人に影響を与えるジェスチャー、抗議
3.挑発的、あるいはリスペクトに欠けるジェスチャー
4.審判に対する、あらゆる種類の攻撃的な態度/振る舞い
5.モラルハラスメント(集団による嫌がらせ)、集団で審判を囲むなど
6.時間稼ぎ、試合の流れを意図的に遅らせる(ボールを持ったまま移動する、蹴り飛ばす、遠くに投げるなど)
7.シミュレーション(相手選手との明らかな接触がない)
8.集団でのいさかいのきっかけを作る(集団乱闘)
これらの変更を受けて、後期のブンデスリーガでは審判へ抗議の意を示す行為に対して警告が出されるシーンが頻繁に見られるようになった。物議を醸したRBライプツィヒ戦でのボルシアMGのプレアの退場や、シャルケのデイビッド・ワグナー監督のDFBポカールでのヘルタ・ベルリン戦の退場などがその一例だ。
一方で、ブンデスリーガの監督たちは、カード提示の最終的な裁量が各レフェリーに任されており、制裁の基準が試合のたびに変わることに戸惑いを覚えている。
審判の減少傾向を止められるか
『ターゲスツァイトゥング』は、ベルリンで審判を務める人間が減少傾向にあると指摘する。ベルリン州では、育成年代からシニアリーグまで毎週約1500試合が行われ、約1100人の審判が試合を裁いている。主審1人で試合を裁くこともあるのは、単純に人手が足りないことが要因の一つとなっている。
副審が付くのは基本的に11人対11人の試合で、成人の場合は州2部(ドイツ7部)、育成年代ではU-19の州1部から、3人の審判によって裁かれる。州によって審判の配置人数も変わるが、基本的には少ないリソースを上位レベルの試合から順に振り分けているのが現状だ。
今回のDFBの決定は、現在のドイツサッカー界全体を見通したうえでの対処だと見ることができる。暴力や攻撃性の対象となりやすい審判になりたがる若年層が減り、途中でやめてしまう人が増え続けていることが顕在化したドイツのアマチュアサッカー界。この対処が功を奏し、負の連鎖を止めることができるか。議論は続けられる。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。