今シーズンのRBライプツィヒで最も欠かせない存在は、オーストリア代表のコンラート・ライマーだろう。バイエルンのロベルト・レバンドフスキと得点王争いを繰り広げているティモ・ベルナーのように目立った数字を残してはいないが、より細かくデータを見ていくと、彼が不可欠な存在である理由が分かる。
前半戦の“1対1キング”に君臨
現在22歳のオーストリア代表MFは2017年夏、500万ユーロ(約6億円)の移籍金でライプツィヒに加入した。現在、その市場価格は2300万ユーロ(約27億6000万円)まで跳ね上がっている。ライプツィヒは今シーズンのブンデスリーガで3敗を喫しているが、そのうちの2試合はライマーが欠場した試合だった。
オーストリアのウェブサイト『アーブザイツ』は、「今シーズン前半戦の欧州トップリーグで最も1対1の頻度が多かった選手」というカテゴリーでライマーがトップに立ったことを伝えている。
90分あたりで1対1に挑んだ回数は15.8回で堂々のトップ。2位はノリッジのトム・トリブルの14.8回で、3位には13.98回でマンチェスター・ユナイテッドのフレッジが続く。レアル・マドリーのカゼミーロが11.8回で7位という数字を見ると、いかにライマーがインテンシブにボールを「狩り」にいっているのかが理解できる。また、その勝率も64パーセントと高い数字を誇る。獲得時にラルフ・ラングニックが「トランジションとボール奪取の能力で中盤を補強してくれるだろう」と期待した通りの数字が出ていると言える。
さらに、今シーズンはユリアン・ナーゲルスマンの下、念願のディフェンシブハーフとしてプレーしている。「(ナーゲルスマンの)スタイルのサッカーは自分に合っている。彼が求めていることは良く理解できるよ」とライマーは話す。
新監督のトレーニングの下で「ボールを持ったときのプレーが改善されたし、今では状況打開の選択肢をより多く見つけられる」と言うように、ボール奪取からのボールアクションの正確性、ゲームメイキングの能力も向上している。90分あたり3.1回「シュートに繋がる攻撃」に絡んでおり、攻守の繋ぎ役として圧倒的な存在感を放っている。
謙虚な姿勢であらゆるポジションをこなす
ライマーは2007年に10歳でRBザルツブルクの育成機関に加入して以来、一貫してRBグループでプレーし続けてきた。「RBグループのDNAの申し子」と呼ぶに、彼以上にふさわしい存在はいない。
1試合平均の走行距離は12.6km。チーム全体の3分の1を占め、リーグ3位となるファウル数は、攻撃的なプレッシングを果敢に仕掛け続けている証だ。SBやオフェンシブハーフとしても活躍するなど、マルチロールをこなせる貴重な存在でもある。ドイツメディア『RAN』がバイエルンのドイツ代表ヨシュア・キミッヒと成長過程を比較するほどで、守備的MFを本職とするライマー自身も「ピッチに立てるならそれだけでうれしい」と、どのポジションでもチャレンジするポジティブな謙虚さを持ち合わせている。
主力として不可欠な存在となったライマーは、選手目線で今シーズンのライプツィヒを次のように評価し、チームの成長を実感している。
「まだまだ目指しているところには達していないけど、前進はしている。ビルドアップのバリエーションは増えたし、ボール保持時の動きも良くなっている。守備を固めた相手をよりうまく崩せるようになって、さらに多くのゴールも決めている。自分たちの“武器”であるカウンターもさらに洗練された」
ライマー自身は、今後も長期間に渡ってライプツィヒでプレーし続けることを望んでいる。RBグループの生え抜きのライマーが、ドイツ王者、そしてUEFAチャンピオンズリーグ王者の栄冠を手にした時、このプロジェクトが1つの頂点にたどり着いたと言えるだろう。その可能性は、決して小さくはない。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。