エルツゲビルゲ・アウエは、ブンデスリーガ2部で第20節終了時点6位と健闘している。ホームタウンのアウエは人口約1万6000人の東ドイツの小都市で、クラブの予算規模も1100万ユーロ(約13億2000万円)とブンデスリーガ2部でも小規模だが、すでに2部のクラブとして定着した感がある。
コーチ陣の顔ぶれも独特だ。今シーズン途中に就任したディルク・シュスター監督は、工夫をこらしながらダルムシュタットを3部からブンデスリーガまで導いた経験がある小クラブのエキスパートだ。コーチングスタッフに目を向けると、GKコーチのダニエル・ハースはいまだに現役の第3GKとしてメンバーに名を連ねている。
その中でとりわけ目を引くのは、第2アシスタントコーチを務めるマルク・ヘンゼル。2009-10シーズンにブンデスリーガ3部から2部への昇格に貢献し、クラブの黄金期を築いた功労者の1人だ。
ヘンゼルはキャリアの後半にアウエやケムニッツで選手とプレーしながらドレスデン工科大学に通い、引退後に教師の免許を取得した。現在は午前中にドイツ語と歴史の教師、午後はコーチ業という生活を送っている。
ドイツでは珍しくない教師と指導者の兼業
ヘンゼルは大学がある地元ドレスデンの育成機関からアウエにやって来た。地元ザクセン州のニュースポータル『Tag24』がその経緯を紹介している。アウエは2部に定着したことで予算の多くをトップチームに割り当て、下部組織の土台が崩れ始めていた。その立て直しを求められたのがヘンゼルだった。
州リーグにまで低迷していたU-19を、この年代のドイツ2部にあたるレギオナルリーガに定着させると、その手腕が認められて今シーズンからトップチームの第2アシスタントコーチに就任した。『シュポルトビルト』によると、ヘンゼルは学校の仕事があるため、午前中のトレーニングには不在だという。
ヘンゼルのような雇用形態は、ドイツサッカーの育成年代ではよく見られるものの一つだ。ブンデスリーガのクラブのように潤沢な資金があれば、育成機関にも専属の指導者を雇い入れることもできる。だが、女子ブンデスリーガや小規模クラブの育成機関や、州選抜レベルの指導者の場合、国立や州立のスポーツエリート学校や、クラブと提携している学校などで教師を務めていることも多い。
シーズン序盤には暫定監督も務めた
ヘンゼルは今シーズン序盤の8月23日、暫定監督としてシュトゥットガルト戦で指揮を執った。戦力で圧倒的に上回る相手に0-0という好結果を残したあと、彼は言った。
「私はこれでチームを支える裏方に戻るだろう。教師として学校に通うことを本当に楽しんでいるからね。だが、この素晴らしいチームと一緒に仕事を続けられることを喜んでいる。新監督が来たら、この素晴らしいメンタリティを備えたチームを引き継いでもらうことになる」
その言葉通り、現在はシュスター監督の下でアシスタントコーチを務めている。クラブ内部を熟知し、育成機関とトップチームをつなぐ軸として、自身の損得抜きで動けるヘンゼル。クラブに安定をもたらす貴重な存在として、今後も大きな役割を果たしていくことだろう。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。