1月13日、バルセロナがバルベルデ監督の解任とキケ・セティエン新監督の就任を発表した。首位チームでの監督解任は90年以上続くリーガの長い歴史上でも3回目で、バルセロナがシーズン途中で監督を交代したのは2003年1月以来。まさに異例ずくめの監督交代劇だった。
逆転負けを機にあえなく解任
引き金となったのは、1月9日のスペインスーパーカップ準決勝。シーズン最高に近い内容でアトレティコ・マドリーを2-1とリードしながら、残り10分間でカウンターを2本食らって逆転負けを喫した。急に失速し崩れる負け方を見て、昨シーズン、一昨シーズンのUEFAチャンピオンズリーグでリバプールとローマに逆転負けしたこと思い出した人も多かったのではないだろうか。
加えて、リーガ4試合を含む直近5試合の成績が1勝3分1敗となり、低迷傾向が明確になったため、大事に至る前に手を打った、という見方もできる。
もともとバルベルデの監督の座は、バルトメウ会長との関係性と成績のみが支えていた面がある。ネイマール売却と呼び戻し工作、デンベレ、コウチーニョ、グリーズマンの獲得、CBと左SBの補強不足など、会長主導の補強戦略に黙って従い、リーグ連覇、コパ・デルレイ、スペインスーパーカップと4つのタイトルをもたらした。だが、勝利を重ねるごとに、ポゼッションを諦めてカウンターを狙う戦い方が「バルサらしくない」と批判され続けてもいた。
スタイルはバルベルデとは正反対
後任のキケ・セティエンは、そんなバルベルデとは対照的な監督だ。彼の場合はまずポゼッションありき。クライフ監督時代のバルセロナと対戦し、散々ボールの後ろを走らされた彼は、ボール保持の重要性を痛感。監督になってからはクライフ主義者を自認し、一貫してショートパスを足下に繋ぐスタイルを実践してきた。彼のサッカー観がわかる就任会見でのフレーズを引用してみよう。
「何年も前に決めた自分の生き方をここでも実践する。それと心中する覚悟だ」「勝つための最高の方法は良いプレーをすること」「最も重要なのはフィロソフィーであり、どうプレーするかが明確であること」「私が唯一保証するのは、私のチームは必ず良いプレーをすること」
ベティスの監督時代にインタビューをしたことがあるが、サッカー観が人生観にまで、プレースタイルがライフスタイルにまで高まっている点に感銘を受けた。だが、そのフィロソフィー至上主義が常勝を求められるバルセロナで受け入れられるかどうかは別問題。現場介入を極端に嫌い、それによって昨シーズン限りでベティスを退団した経緯があるので、バルトメウ会長とうまくやっていけるかも不安だ。
セティエンのベティスはカンプノウでバルセロナを破った最後のチームであり(18-19シーズンのリーグ第12節、3-4)、リーガのポゼッション記録を保持するチームでもある(同じく18-19シーズンの第6節レガネス戦、82.5%。それまでの記録保持者はグアルディオラ時代のバルセロナが11-12シーズンに記録した82.2%)。原点回帰を原理主義者に委ねたバルセロナの英断は、果たしてどう出るのか。楽しみだ。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。