1月7日、マラガがビクトル・サンチェス・デル・アモ監督の職務停止を発表した。
このニュースを報じる『マルカ』紙の「マラガ、セクシャルなビデオの流布でビクトルの職務停止」というタイトルを見て、てっきりビクトルが問題のビデオを誤って、あるいは故意に流した責任を問われたものと思ったが、そうではなかった。ビクトルが登場するビデオを流したのは第三者であり、彼は「2万ユーロを払わなければビデオを流す」と脅迫されていた。つまり、ビクトルは被害者なのだ。
被害者なのに処分される理不尽さ
プライベートな映像を本人の許可なくネットに出すのは犯罪であり、それをネタに現金をゆすり取ろうとしたのであれば、さらに罪は重なる。犯罪者の脅迫に屈せず、警察に被害届を出したビクトルがなぜ「事実関係が明らかになるまで職務停止」にされなければいけないのか。金を払わず、警察に被害を訴えることは、当局も推薦する勇気ある行動のはずなのだが――。
マラガは理由を明らかにしていないが、唯一、正当化できるとしたら、ビデオの内容がクラブのエンブレムを傷付けるものと判断した、ということだろう。
監督や選手はクラブのイメージを代表する存在であり、責任ある言動が求められているのは間違いない。例えば、私が最初に勘違いしたように、リベンジポルノの加害者だったのであれば職務停止や解任という処分もおかしくはないし、過去には飲酒運転や酒場での暴力行為、プライベートでの暴言など、グラウンド外の不始末で解任された例もある。だが、繰り返すがビクトルは被害者なのだ。
会長との不仲が職務停止の引き金に?
ビデオを見ていない(見るつもりもない)のでどんな内容だったのかはわからないが、ビクトルがセクシャルな行為をしていたとしても、それは犯罪ではない。それが例えば不倫相手との行為であったとしても、犯罪でないことに変わりはない。不倫は道徳的には裁かれるべきかもしれないが、それを理由に解雇されたのだとしたら、それは不当解雇だとスペインの労働関係の専門家たちは見ている。ちなみに、ビクトルの妻は脅迫に屈しなかった夫を称え、マラガの処分の方を非難している。
マラガファンや選手もビクトルを応援し、ルビアレス連盟会長は「職を失ったら連盟に仕事がある」とまで言っている。どんなにスキャンダラスな内容のビデオだったとしても、マラガの行為は水に落ちた子犬を叩くような残酷なものと受け取られても仕方がない。そうなれば、それこそクラブのイメージダウンである。
もっとも、アル・タニ会長とビクトルは岡崎を獲得し損なった件で明らかになったように、財政危機で不十分な補強しかできなかった夏以来、関係が極めて悪い。会長がスキャンダルを口実にビクトルを処分した、というのが職務停止の真相なのかもしれない。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。