2019年12月30日の『キッカー』の中で、シュツットガルトやボルフスブルクで指揮を執り、ドイツ王者に輝いたこともあるフェリックス・マガトのインタビューが掲載された。選手時代はハンブルクで黄金期を築き、指揮官としても歴史ある“トラディショナルクラブ”を経験してその内実を良く知るマガトにとって、これらのクラブの“凋落”は当然の帰結のようだ。その様子は、まさに“大企業病”を連想させるものだった。
現場の発言権減少に警鐘
「現在のサッカービジネスでは、それぞれが自分のポストを維持することにやっきになっている。だから、クラブや連盟の決定も、純粋にサッカーに関するものだけではなくなっている。現場を預かる監督たちはその決定に関与することが許されていない。関われたとしても限定的だ」
ドイツ国内でプロクラブの監督の立場が弱まっていることは、すでに議論の的になっている。だが、実際にクラブの死活問題になるのは成績およびプレー面だ。その責任者である監督の発言権が小さくなり続けている状況に、マガトは警鐘を鳴らす。
「現在のサッカー界では、スポーツビジネスの要因が強くなり続けている。そのため、(監督が下すはずの)現場の決定にいろいろ口を挟んでくる役員が、クラブ内に多すぎるんだ。そして大抵の場合、クビがかかっているのは監督だけだ」
その監督交代については明確なバロメーターがあるようだ。「クラブがコンセプトを持っているかどうかだ。多くのクラブは、残念ながらコンセプトなど持っていないだろう。だから、成績が悪くなると頻繁に監督を解任するのだ」
トラディショナルクラブの苦難は必然
長い伝統を誇るトラディショナルクラブが安定した成績を残すのは、年々難しくなり続けているようだ。現在のRBグループの礎を築いたラルフ・ラングニックと同様、現場に口を出したがるステークホルダーが多すぎることを理由に挙げている。
さらに「トラディショナルクラブ内の人びとは、過去の成功で自分を飾り立て、その威光を堪能したがっている」と厳しい目を向ける。マガトは自身にも深い縁があるハンブルクを例に、組織“図”としては変わったが、決定に関わる人間が同じである限り、何も変わらないと話す。「(あそこでは)純粋にサッカー面を考慮した決定などほとんどない。あるのは自分たちのポストを守るためのものばかりだ」
企業、組織の変化は必須
マガトから見て、ハンブルクのようなトラディショナルクラブが大きく変わる可能性は低いようだ。「今のところ、資金が尽きるまでこの状態が続くだろう」
日本国内で“大企業病”という言葉が聞かれるようになって久しいが、これは肥大した組織が硬直すればどこでも起こり得ることを示している。グルーバル化が進み、組織の最適化が高スピードで進められる中、日本、欧州のサッカー界にかかわらず、世界規模で変化が求められているのだ。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。