リキ・プイグのことは、安部裕葵を追うファンなら知っているだろう。バルセロナB所属、20歳の童顔、169cm、56kgの小柄なMFである。「イニエスタ2世」と呼ばれるが、最後の崩しに関われるイニエスタと、そこに行くまでのキープと間を操れるシャビの特徴をも兼ね備えているように見える。Bチームが所属する2部Bのレベルが低いから万能でやれている、という見方もできるが、バルセロナBは完全に彼が輝くためのチームであり、そこでは彼はブスケッツでもあり、メッシでもあるのだ。
Bチームはトップチームよりもはるかにボールを支配する意識が強く、ボール支配率が80%に達することも珍しくない。そんなチームにおいてリキはボールタッチ数において群を抜いており、周りの選手を意のままに動かしている。ボールを受け、散らし、キープし、アシストを出し、ゴールまで決める。2ゴール3アシストという今シーズンここまでの成績は、例えば安部の4ゴールに比べて特に傑出しているわけではないが、プレーに顔を出す回数、すなわち影響力が違う。
トップ昇格か、レンタルで修業か
そんなタレントの去就が、この冬の移籍市場で注目されている。
今シーズンここまでトップチームでの出場はゼロ。インサイドMFの2枠はフレンキー・デ・ヨンク、アルトゥール、ラキティッチ、ビダルで埋まっている。下位に低迷するセルタやエスパニョールにとってリキは絶対に欲しいはずのタレントであり、レンタルで1部リーグのクラブに修行に出るという手は常にある。高いレベルで揉まれてこそトップチームへの道が開けてくるのは間違いないのに、本人は「バルセロナで開花したい」と残留を希望。レンタルからの出戻りで成功したのは現チームではDFのピケとジョルディ・アルバだけで、MF陣には皆無だからなのか。
ただ、ここに来て状況が好転するかもしれない。
Bチームの先輩であるアラニャがベティスへとレンタルに出され、アルトゥールは依然として負傷中。加えて、ビダルが出場機会の少なさに不満を漏らした挙げ句にバルセロナをボーナス不払いで訴えたのだ。このビダルの態度の背景にはインテルからのオファーがあると見られ、移籍の可能性が出てきた。となれば、リキを引き上げて補充するしかない。
バルベルデ監督はリキのレンタルに一貫して反対してきたが、これは本人の将来を考えて、というよりも、不測の事態に備えて、という意味合いが強かった。トップチームの監督からすれば、リザーブは多ければ多いほど良い。バルベルデが才能を本当に評価していたなら、フレンキー・デ・ヨンクの補強はなかったはずなのだ。
ビダルが移籍するならリキの引き上げは確実。アラニャのように使われない可能性もあるが、そうなればさすがに本人も移籍を決意するだろう。ビダルが移籍しなくてBチーム残留でも、上からお呼びがかからなければ移籍へと気持ちが傾くに違いない。折しもウーデゴールや久保建英がレンタル先で大輪の花を咲かせつつある。“Bの王様”のままくすぶっているのが一番もったいない。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。