あのジェームズ・ミルナーが本を出したとなれば、取り上げないわけにはいかない。ミルナーといえば、マンチェスター・シティ時代に2度のプレミアリーグ優勝を経験し、昨シーズンはリバプールでUEFAチャンピオンズリーグを制し、欧州の頂点に立った選手だ。現役のプレミアリーガーとしては、プレミアリーグ最多出場記録まで持っている。
彼の魅力は、何と言っても中盤からSBまでこなす献身性だ。監督にとっては非常にありがたい“計算できる選手”である。黙々と仕事をこなす優等生タイプな選手だからこそ、ツイッターに65万フォロワーを超える「Boring James Milner(退屈なジェイムズ・ミルナー)」というパロディーアカウントまで登場し、彼自身が「退屈な男」と見られてしまう。
実際のところはどうなのか? 10月末に発売された彼の著書『Ask A Footballer(フットボーラーに聞いてみよう)』を少し見てみることにした。
冒頭から飛ばすミルナー
「こういった場合は驚きの新事実から入るものだよね。僕はライビーナ中毒ではないのさ」と、冒頭から冗談を飛ばしている。ミルナーは2018年のCLで決勝進出を決めた際、赤ワインで乾杯するかと聞かれて「僕はライビーナを飲むかもね!」と返したことがある。この面白くないジョークのせいで“ライビーナ好き”と誤解され、大量のライビーナが練習場に送られてきたという。
ライビーナとは、英国で有名な濃縮タイプのジュースだ。日本で例えるならばカルピスであり、ライビーナを飲んだことのない子供はいない、というくらいの国民的なジュースである。英国を訪れた日本人からは「間違ってストレートで飲んでしまった」というエピソードを聞くことがある。「チョコレートと勘違いしてマーマイト(独特の味がする発酵食品)をパンに塗りたくった」と並び、英国の食文化で気をつけるべき2大“あるある”だろう。
それはさておき、ミルナーのパロディーアカウントは「アイロンをかける」とか「紅茶を飲む」といった退屈な日々をツイートして有名になった。それについて本人は、偽アカウントが出回る「変な時代だ」と指摘しつつ「たまに面白いと思ってしまう」と認めている。
食生活はキャリア17年間で激変
しかし、今回の著書で彼が本当に伝えたいのは自分の素顔ではなく、フットボール選手の生活なのだ。だから「自叙伝ではない」と明記しており、ファンからの様々な質問に答える形式をとっている。
少年時代についての質問には、リーズの下部組織時代にリー・ボウヤーやアラン・スミスに憧れてユニフォームを所有していたと明かしている。元オランダ代表のジミー・フロイド・ハッセルバインクのことも好きだったそうだが「ユニフォームは買ってもらえなかった」という。名前の文字数が多いので、他の選手よりネームの値段が余計にかかったからだと考察している。
選手の食生活については、キャリア17年間で変遷があったという。過去に所属したクラブでは様々なサプリメントが配られ、フルーツシェイクと野菜シェイクを飲まされて気持ち悪くなったこともあるそうだ。
一方、リバプールではユルゲン・クロップ監督が2016年夏にバイエルンから引き抜いた栄養士モナ・ネマーさんのおかげで、チームの食環境が一新されたと説明している。一流レストラン級の味と豊富なメニューが用意され、食が細かった選手も試合直後すぐに栄養補給ができるようになったそうだ。出場時間に応じて与えられるプロテインのスムージーも、ニューカッスル時代のシェイクとは違って味まで保証されている。
こうして食生活に触れたミルナーだが、本人自身は「食には興味がない」という。必要だから食べる。それだけだ。現代っ子というわけではないので、これぞイギリス人、といった感じだ。
他にも興味深いエピソードがたくさん綴られているようだが、軽く目を通しただけでも確信できることがあった。ジェイムズ・ミルナーは、「ボーリング」でもなければ「暴飲」でもない。
Photo: Getty Images
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Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。