ハビエル・アギーレ(現レガネス監督)が日本代表監督を解任される原因となったレバンテvsサラゴサ八百長事件の判決が、12月9日についに下された。42人の被告人のうち、私文書偽造罪で懲役1年3カ月の有罪判決を受けたのは当時サラゴサの会長だったイグレシアスと役員だったボルケラの2人だけで、残りの40人は証拠不十分で無罪となった。
40人の内訳は、法人であるサラゴサ、当時サラゴサの監督だったアギーレ、同役員の人物、同スポーツディレクターの人物、選手36人(同試合の招集メンバー全員)である。
試合があったのが2011年5月で、ラ・リーガが告発したのが2013年3月、検察が起訴したのが2014年12月、アギーレが日本代表監督を解任されたのが2015年2月、裁判が始まったのが同年3月、その後、中断を経て2019年9月に再開され、今回の第一審判決まで、足かけ9年半の長い道のりだった。
試合前に不可解な金の動き
疑惑の概要も紹介しておこう。
同試合はレバンテが残留確定済み、サラゴサが残留するには勝ち点3が必要という状況で行われた。レバンテはホームで最悪の試合をし、ガビ(元アトレティコ・マドリー)の2ゴールでサラゴサが勝利した。
レバンテの無気力ぶりはスタッツにも表れており、それが疑われた理由の一つなのだが、もちろん無気力試合は罪ではない。単にスポーツマンシップに反しているだけで、よく見かける光景である。目標達成後にモチベーションが下がり、練習日を減らし、メンバーを落とすバケーションモードに入ってしまうのは、犯罪ではない。
そんな中、この試合が八百長とされたのはその裏で不思議な金銭の動きがあったからだ。サラゴサの選手9人とアギーレ、SDの銀行口座に、試合前なのに「残留ボーナス」名目の大金(96万5000ユーロ=現レートで約1億1600万円)が振り込まれ、それがすぐに一斉に引き出されており、この金がレバンテ選手の買収に使われたのではないかと疑われたのだ。
「疑わしきは罰せず」で結審
裁判において、11人はほぼ全員が「(ボーナスは)クラブに返却した」と口をそろえた。だが、その証拠がない。というのも、返却は現金手渡しだったからだ。口座データが残っているのはサラゴサの入金と11人の引き出しの事実だけ。引き出された後は使途不明金化している。これは最も原始的なマネーロンダリングの手口である。
さらに、不自然な金の動きはレバンテの選手側にもある。口座データによると、この年のバケーションで彼らはほとんどお金を使っていない。なぜか? サラゴサから渡された現金が手元にあったからではないか、と検察は見ていた。
今回の判決に思うのは、「八百長を実証するのはほぼ不可能である」ということ。無気力試合の裏にあまりに不自然なお金の動きがあった。それが口座データで実証できた。だが、それらは状況証拠に過ぎなかった。罪を問うには、八百長の談合やレバンテ側への金銭の受け渡しを映像で押さえるなどの直接的証拠がいる。でないと結局「疑わしきは罰せず」で終わりなのだ。
Photo: Getty Images
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木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。