就任後の初会見はすこぶる好評だった。「あのジレ(ベスト)は……」とファッションについては指摘を受けたが、トッテナムのジョゼ・モウリーニョ新監督は11月21日に開かれた記者会見でマスコミ陣をうならせた。
“カリスマ”から“神経質な男”へ
会見については、『BBCラジオ』に出演した記者が「10点満点」の太鼓判を押すほどだった。1年前には針のむしろにされた男が、これほどまで温かく歓迎されたのは少し驚きだったが、確かに以前とは違うジョゼを印象付ける受け答えだった。
だが、本当にモウリーニョは変わったのだろうか? 2004年に初めてイングランドにやってきた時のモウリーニョはカリスマ性に満ちていた。あの頃から敵を作る性格だったが、当時のジョゼは外に敵を作った。そして選手たちと堅い絆を築いて“外部”と戦った。
それが2013年、再び英国に戻ってきた時は変わっていた。チェルシーでは女性フィジオから訴えられ、マンチェスター・Uではポール・ポグバら選手たちと対立した。あまりにも神経質になりすぎ、クラブの“内部”に敵を作るようになったのだ。
2016年にユナイテッドで就任会見に臨んだ際には、若手育成の実績の乏しさ指摘されることを警戒し、自分がそれまで起用してきた若手選手55名のリストを用意して記者に配ったという。メディアの質問に対して反撃する構えで、そうやって敵意をモチベーションにするようになっていたのだ。
時代とともにその手法に変化も
しかし時代は変わり、選手を取り巻く環境も変わった。元トッテナムのMFマイケル・ブラウンはモウリーニョの就任に際し、指揮官の変化を期待した。「今ではフットボール界の指導法もかなりソフトになった。“肩に手を回すコーチング”というやつだ。我々の時代は真実を告げられ、そこでくじけたらキャリアが終わるだけだった。ジョゼは、少しだけその時代に取り残されていると思う。変化が必要だ」
ブラウンと共演した元マンチェスター・Uのダレン・フレッチャーも、モウリーニョの変化について興味深いことを明かした。「これまでとは少し違うジョゼが見られるはずだ」と『BBCラジオ』で説明した。「レアル・マドリーで影響を受けたのだと思う。それまでは選手から恨みを買うような監督ではなかったはずだ。これは確かな情報だが、彼はユナイテッドを去った後、少し自分を見つめ直し、何名かに自分がどうだったか意見を求めて本音を言ってもらった。反省している証拠だ」
あのモウリーニョが自分の非を認め、変わろうとしているというのだ。実際にスパーズでの会見でも「キャリアを通じてミスもあった」と物腰の柔らかい口調で語っている。本当に、あの威圧的な態度は消えたのだろうか。
いや、そんなことはなかった。初陣となった11月23日のウェストハム戦では、眉をつり上げて戦闘モードに切り替わり、見事に3-2の勝利を収めた。態度の変化もそうかもしれないが、この切り替えこそが“新モウリーニョ”なのかもしれない。では、そのスイッチはどこにあるのか?
ユナイテッド時代のモウリーニョはホテル暮らしだった。成績不振、メディアの注目、ファンの声。全てを1人で抱え込んだ。だが、今回はロンドンの自宅に住むことができる。今年、結婚指輪をせずにTVに出演して不仲説も出たモウリーニョだが、スパーズでの会見では薬指にしっかり大きな指輪をつけていた。
心の安らぎ。それをオンオフのスイッチとして、“新モウリーニョ”は再び過酷なプレミアリーグの荒波に立ち向かうのであろう。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。