文 木村浩嗣
11月15日のEURO2020予選スペイン対マルタを取材して、変わったもの、変わらなかったものがあることに気が付いた。結果は7-0でスペインが1試合を残して首位通過を決めている。
36年前の再現のような快勝劇
マルタは1983年12月の欧州選手権予選で12-1の歴史的な大勝を記録した相手である。
予選突破のためには得失点差で11の上積みが必要だった状況で、見事に奇跡(なにせ、それまで7試合で12得点しか挙げられなかった!)を達成した試合だ。前半は3-1で絶望的だと思われたが、後半に9点を挙げたところも15日夜の前半2点から後半5点という得点経過と似ていて、ロベルト・モレーノ監督も「(アグレッシブな)選手の姿勢はあの12-1の再現のようだった」とご満悦だった。
違っていたのがマルタの戦術だ。
最終ラインを上げて相手のバックパスを追わず、20数mの幅にフィールドプレーヤー10人を固めてコンパクトに守ってきた。「ボールを奪ったらカウンターに出るぞ」という意思表示である。格上のポゼッションチームに対してベタ引きでゴール前に人の壁を築くような36年前のやり方は、もう完全に過去のものなのだ。
バルセロナの重要度が低下
もう一つ過去のものになったのが、代表でのバルセロナの重要度である。
15日の先発メンバーにはバルセロナの選手が皆無で、唯一ベンチにいたブスケッツも出番がなかった。この日のロドリのプレーぶり――CBの前でチームを動かすだけでなく、得点に繋がるような危険なパスを何本も出した――と、フレンキー・デ・ヨンクの控えというクラブでの本人の境遇を見る限り、定位置を奪い返すのは難しいだろう。
過去には最多9人を送り出したこともあるバルセロナは、代表の黄金時代の支柱的な存在だった。
EURO2008優勝に3人(プジョル、イニエスタ、シャビ)が貢献すると、2010年南アフリカW杯は7人(プジョル、ピケ、イニエスタ、シャビ、ブスケッツ、ペドロ、バルデス)、EURO2012も7人(W杯のメンバーからシャビが抜けジョルディ・アルバが加わる)が優勝メンバーとなった。しかし今は、負傷中のジョルディ・アルバがただ一人のレギュラーで、後はセルジ・ロベルトくらいしか候補がいない。将来的にはアンス・ファティが入って来るのだろうが、伝統のMF陣ではアレニャやプッチに出番が与えられず、期待の星すらいない。
対照的に、いずれも先発だったヘスス・ナバス(33歳)、サンティ・カソルラ(34歳)ラウール・アルビオル(34歳)と懐かしの顔が奮闘しており、169試合出場で黄金のキャプテンマークを連盟から贈られたセルヒオ・ラモス(33歳)も良い具合に歳を取ってきて、新戦力(15日はダニ・オルモ、パウ・トーレス、パウ・ロペス)が力を出せる環境が整いつつある。メンバーを固定せず、競い合うことでレベルを上げていく――このダイナミズムを維持できれば本大会、久しぶりにちょっと楽しみだ。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。