剛腕会長が突如の監督交代を断行
2部のアルメリア会長にサウジアラビアの富豪トゥルキ・アル・シェイクが就任し、大金を投じて補強すると同時にユニークなファン獲得策で旋風を起こすなど、その剛腕ぶりは以前お知らせした通り 。チームも期待に応えていたのだが、11月4日ペドロ・エマヌエル監督を突然解任する驚きの人事を発表した。
ここ8節で獲得勝ち点がわずか8ポイントと勢いが落ちていたことは確かだ。独走するカディスを除けば混戦の2部で、早目に手を打った、と言うことなのか。だが、チームはダイレクト昇格圏の2位なのだ。周りにイエスマンしかいない独裁会長でなければできないことである。
そして、その後任がまた驚きだった。
あのグティである。言わずと知れた往年の名選手だが、指導者としては古巣レアル・マドリーの下部組織監督と、2018-19シーズンのベシクタシュでの助監督の経験しかない。アル・シェイクはキーケ・セティエンら仕事の無い監督を自宅に招きサッカーを学ぶ会合をしていたが、グティもその一人だったからその場で意気投合した、サッカー観にほれ込んだということなのだろう。
もちろん元銀河系軍団のスターという話題性も十分考慮したはずだ。前監督解任の夜には「14番がスタジアムの上を飛んでいる」というツイートを出して前評判を煽っていた。14はグティの現役時代の背番号である。
デビュー戦は“経験不足”を露呈
その話題の初陣はどうだったか? 11月10日のデビュー戦は対サラゴサだったので日本で見た人もいるかもしれない。
就任してから1週間足らずと時間が無かったことを考慮しなければならないが、結果は引き分け(1-1)で、チームの悪い流れを変えたとは言い難い。先発11人の顔ぶれは前監督のそれとほぼ同じ。システムも[4-4-2]で同じだった。1つ違うのが、前監督のカウンターサッカーに対して元レアル・マドリーらしくポゼッションサッカーに転換する、という話だった。
だが、そのために最終ラインを上げてボールロスト後にプレスをかけるというやり方が機能していたのは前半の30分間だけ。徐々にラインが下がり、逆にサラゴサがボールを回し始める。幸運にもセットプレーから先制して前半を終えるも、後半は完全にサラゴサペースになって当然のごとく追い着かれ、追い越されるのも時間の問題、というところで試合終了の笛に救われた。
劣勢のチームを前に何か手を打ってくるかと思われたが、グティは腕組みをしたまま思案顔。ベンチには座らず立ちっぱなしだったものの、現役時代のやんちゃぶり、気性の激しさを知る者からずれば拍子抜けの大人しい采配ぶりだった。
スター選手から経験が浅いままスター監督になったのは、ジョゼップ・グアルディオラやジネディーヌ・ジダンの成功例があるが、失敗も多い。1カ月前にはビクトル・バルデスがバルセロナユースの監督をクビになったばかりだ。剛腕会長の気は短い。ここ1カ月ほどが勝負である。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。