主要スカウティング地域は北欧からフランス・スイスへ
RBライプツィヒにイングランドから若手選手がやって来たように、現在、欧州のトップタレントにとってブンデスリーガは魅力的なマーケットだ。それらブンデスリーガのクラブが、どの程度の規模の予算で動き、具体的にどの地域を狙っているのか、クラブごとの戦略を辿る。
今回は、『transfermarkt』でメンバーの市場価格の総額推定リーグ5位のボルシア・メンヘングラッドバッハ(推定2億5700万ユーロ、約306億円)。ヨーロッパリーグ、チャンピオンズリーグの枠を争うチームの規模感が伝わるだろう。
マックス・エベールがマネージャーに就任して以来、着実にブンデスリーガの上位クラブに定着したボルシア・メンヘングラッドバッハ。以前は、デンマーク代表のアンドレアス・クリステンセン(現チェルシー)、ヤニック・ベスターゴーア(現サウサンプトン)、スウェーデン代表のオスカー・ベントなど、北欧の選手をメインにスカウティングを進めてきたが、この数シーズンはスイスとフランス語圏の選手の獲得に力を入れているようだ。独紙『ビルト』がブンデスリーガクラブのスカウト部門の仕事ぶりを伝えている。
フランスの若手の関心はイングランドからドイツへ
現在、チームの攻撃を牽引するアラサヌ・プレア、新加入アタッカーのマルクス・テュラム(フランス代表やパルマで活躍したリリアン・テュラムの息子)、それに加えて今季ドルトムントへ移籍したベルギー代表のトルガン・アザールもフランス語を話し、フランスのランスの育成機関で育っている。
また、ブレール・エンボロ、ヤン・ゾンマー、ニコ・エルベディ、デニス・ザカリアといった主力のスイス代表勢も、ドイツ語を話すもののフランス語にも慣れ親しんでおり、ピッチ上のコミュニケーションに困ることはないようだ。
エベールマネージャーは、「フランスの育成は際立っている。フランスの選手たちは、以前はイングランドに活躍の場を求めていたが、今はドイツのブンデスリーガの方にも目を向けている」と、欧州内の風向きの変化を敏感に読み取っている
スカウト部門の予算は推定6億円
今季、バイエルンに移籍したばかりのU-20フランス代表のミカエル・キュイザンスは、推定1000万ユーロ(約12億円)の移籍金をもたらしたとされる。この金額は、ボルシア・メンヘングラッドバッハのスカウティング部門の予算の2倍だという。つまり、メンヒェングラートバッハのスカウティングにかける年間予算は約6億円という計算になる。
『ビルト』によれば、ディレクターとチーフの他に、スカウティング部門には13人のフルタイム契約のスタッフが働いており、国内および欧州内の近隣国を中心にスカウティングに足を運んでるという。
スカウト部門のチーフを務めるマリオ・フォッセンは「主要スカウティングは、現場のライブで行うものですが、1日に5件から20件程度の選手の売り込みメールも受け取っていますね」と話す。他にも、育成年代の規模の大きな国際トーナメントは、必ず開幕戦から追い続けるという。
とりわけ、リストアップされた選手たちは、ボルシア・メンヘングラッドバッハのトップチームとの直接対戦を経て獲得にいたることも多いという。現在エースとして攻撃を牽引するプレアは、ニースとの練習試合後、そして、スイス代表のザカリアは欧州CL予選での対戦で獲得にGOサインが出た選手たちだ。
現場に足を運ぶことで生まれる縁
そういった現場のライブでのスカウティングに力を入れる作業には、思いもよらぬ“偶然”も訪れる。2014年にドイツ代表で世界王者に輝いたクリストフ・クラマーがその1人だ。クラマーは、自身がグラッドバッハにたどり着いた経緯を笑いながら振り返った。
「(ボーフムにいた当時)グラッドバッハのスカウティングが試合に来ていたのは知っていたよ。レオン・ゴレツカを見に来ていたのさ。あまりにレオンの値段が高すぎたから、僕を獲得したわけだ。彼の隣で、僕もそれなりに良いプレーをしていたんだろうね!」
Photos: Getty Images
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Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。